仏教国・スリランカ大統領が嘆いた「精神性」なき経済大国ニッポンストレスで心身を病み、将来への漠然とした不安を募らせる日本人。なぜこんな世の中になってしまったのか。「立て直す力」を探る(写真はイメージです) Photo:PIXTA

相次ぐ企業の偽装事件、ストレスで心身を病む会社員、続く役人の文書改竄・不適切調査、そして長すぎる老後への不安――。なぜ、こんな世の中になってしまったのか。スリランカで「悪魔祓い」のフィールドワークをおこない、「癒し」の観点を早くから提示し、日本仏教の再生に向けた運動にも取り組む上田紀行・東京工業大学教授・リベラルアーツ研究教育院長は、いまの日本人には、したたかに「立て直していく力」が乏しいと言う。日本は何を捨て去ってしまったのか? 上田教授の著書『立て直す力』(中公新書ラクレ)から、悩みを消し去り幸福に生きるためのヒントをお伝えする。

今の日本を覆う
失敗を語れない雰囲気

 満員電車を前にして、時折立ち尽くしてしまうことはないでしょうか。

 通勤時間帯で、しかも人身事故でダイヤが乱れて、いつもより混雑しているときがあります。

 人が引きちぎられるようにして降りてきて、人があたかもモノのような形で押し込まれていくさまを見ていると、立ち尽くしてしまうのです。残された隙間に突進していく力が湧いてこない。

 それはおそらく、社会状況が変わってしまったからだと思うのです。昭和の頃は、ギューギュー詰めになった車内にからだを預けて、ともかく乗ってしまえば、からだはキツいかもしれないけれど、終着駅にはそれなりの幸せが待っていると思えた。

 経済は右肩上がりだったし、終身雇用制度が維持されている会社も多かった。給与のベースアップも多少なりともあった。少なくとも、昭和から平成の最初の頃までは、漠然とした安心感があったわけです。多くの人がそういう感覚だったので、一体感のようなものがあったような気もします。「経済神話」「企業信仰」というものに守られている心強さもありました。