7月22日、『ガイアの夜明け』(テレビ東京系)で踊る町工場「能作」が取り上げられた。
能作は北陸新幹線・新高岡駅からタクシーで15分前後(昼でも3000円以上)かかる場所にあるにもかかわらず、国内外から年間12万人が殺到している! 一体全体どういうことか?
高岡市の観光名所といえば、瑞龍寺(年間約17万人)や高岡大仏(年間約10万人)が有名だが、小さな町工場「能作」が第2位に浮上。直近では月1万人ペースでビジネスパーソンの視察から主婦、子どもたちまで訪れる。なぜ、こんな“怪現象”が起きているのか?
ドラッカー塾専任講師・国永秀男氏や、1987年から続く書評専門誌「トップポイント」から絶賛された、能作克治社長の初の著書『〈社員15倍! 見学者300倍!〉踊る町工場――伝統産業とひとをつなぐ「能作」の秘密』が注目を集めている。頑張らなくても儲かる秘密、4つの「しない」方針、地方でも人がひっきりなしにくる秘密とは何か? 能作社長を直撃した。(初出:2019年9月12日。再掲載にあたって一部内容を再構成した)

なぜ、「踊る町工場」に
人が殺到しているのか?

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――能作さんの町工場は、社員も、取引先も、工場見学者も、わくわくする「踊る町工場」といわれているとか。

能作克治(以下、能作):ありがたいことです。

 工場見学にきた方が、ある時、こう言ってくれました。

私が工場見学をしたとき、1200度の真鍮(しんちゅう)の前で、筋肉ムキムキの若手職人が真剣に熱風と対峙していました。その近くでは、軽やかに型をつくる職人。彼の無駄のない動きに度肝を抜かれましたね。

 さらに、幼稚園児や保育園児が職人のすぐ横を電車ごっこをしながら工場見学している姿も印象的でした。

 まさに、ここは“踊る町工場”ですね

 みなさん、おもしろがってくださって、ありがたいことです。

――聞いたところによると、社員数も、見学者数も、売上も、すべて右肩上がりとか。創業103年の伝統産業で驚異的です。しかもすごい数の人が見学にくるそうですね。

能作:はい。国内外から年間12万人のお客様がこられます。

――12万人? 先日、御社にお邪魔しましたが、北陸新幹線・新高岡駅からタクシーで3000円以上かかりました。

 失礼ながら、あたりは何もない田園風景が広がっていました。こんなところに、これだけの人が殺到しているのはある意味、「富山の奇跡」と言ってもいいと思います。

 なぜこんな“怪現象”が起きているのでしょうか?

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能作:それは、僕らが楽しみながら仕事をしているからかもしれません。

 僕は、「数字至上主義は、仕事をつまらなくする」と思っています。能作の原動力は、「楽しむこと」です。

 目先の利益よりも大事なのは「楽しさであり、「楽しんで仕事をしていれば、お金は勝手についてくると信じています。

 僕も社員も、「次から次へと、新しい仕事を手がける」ことが何よりも楽しい。それが原動力になっているのかもしれませんね。

 でも、下請け仕事ばかりをやっていた頃の旧工場は暗かったんです。

 下請けから抜け出そうとしましたが、なかなかうまくいかない時代が続きました。

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――こんな時代もあったのですか!

 今の状況を見ると、にわかには信じられませんね。

能作:はい。よくいわれます。

――先ほどの話に戻ると、「楽しい仕事ばかりやっていても儲からないのでは?」というのが経営者やビジネスパーソンの本音のような気もするのですが……

能作:そうでしょうか。僕は、これまで「楽しい」と思ったことには惜しみなくお金を使ってきました。

――どういうことでしょうか?

【ガイアの夜明けに出演!「能作」社長・生告白】<br />営業なし、社員教育なしで売上10倍!見学者300倍!<br />なぜ片田舎に、年間12万人も殺到しているのか?<br />【書籍オンライン編集部セレクション】能作克治(のうさく・かつじ) 株式会社能作 代表取締役社長
1958年、福井県生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒。大手新聞社のカメラマンを経て1984年、能作入社。未知なる鋳物現場で18年働く。2002年、株式会社能作代表取締役社長に就任。世界初の「錫100%」の鋳物製造を開始。2017年、13億円の売上のときに16億円を投資し本社屋を新設。2019年、年間12万人の見学者を記録。社長就任時と比較し、社員15倍、見学者数300倍、売上10倍、8年連続10%成長を、営業部なし、社員教育なしで達成。地域と共存共栄しながら利益を上げ続ける仕組みが話題となり、『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)など各種メディアで話題となる。これまで見たことがない世界初の錫100%の「曲がる食器」など、能作ならではの斬新な商品群が、大手百貨店や各界のデザイナーなどからも高く評価される。第1回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」審査委員会特別賞、第1回「三井ゴールデン匠賞」グランプリ、日本鋳造工学会 第1回Castings of the Yearなどを受賞。2016年、藍綬褒章受章。日本橋三越、パレスホテル東京、松屋銀座、コレド室町テラス、ジェイアール名古屋タカシマヤ、阪急うめだ、大丸心斎橋、大丸神戸、福岡三越、博多阪急、マリエとやま、富山大和などに直営店(2019年9月現在)。1916年創業、従業員160名、国内13・海外3店舗(ニューヨーク、台湾、バンコク)。2019年9月、東京・日本橋に本社を除くと初の路面店(コレド室町テラス店、23坪)がオープン。新社屋は、日本サインデザイン大賞(経済産業大臣賞)、日本インテリアデザイナー協会AWARD大賞、Lighting Design Awards 2019 Workplace Project of the Year(イギリス)、DSA日本空間デザイン賞 銀賞(一般社団法人日本空間デザイン協会)、JCDデザインアワードBEST100(一般社団法人日本商環境デザイン協会)など数々のデザイン賞を受賞。デザイン業界からも注目を集めている。本書『踊る町工場』が初の著書。
【能作ホームページ】 www.nousaku.co.jp

能作:僕は、次のような「楽しそう」と思ったことに、積極的にお金を使ってきたのです。

・新高岡駅から車で約15分の地に、売上が13億円のときに16億円をかけて新社屋を建設

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・企業秘密の2500種類の木型を公開したら、若者の一大インスタスポットに変貌

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平均年齢32歳の職人の横を、工場見学にきた子どもたちが、笑顔で「電車ごっこ」

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・ゴールデンウィークには、能作特製「鋳物ガチャガチャ」や「ワークショップ」で大盛り上がり

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・カフェ(IMONO KITCHEN)の職人カレーセットが大人気メニューに

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・「観光カード」で、富山15市町村のおすすめ店やスポットを紹介し、地域と共存共栄

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世界初! 100%錫(すず)の「曲がる食器」がニューヨークでも大人気に

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ガンダムぐいのみ、ドラえもん、ファイナルファンタジー、ハローキティ、くまモンなど、キャラクター商品も大ヒット

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・創業103年の伝統の技術で、へバーデン リングなど医療分野にもチャレンジ

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・結婚10周年を祝う錫婚式(すずこんしき)を企画し、鋳物工場で人前式を開催

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――それが今の「怪現象」につながっているというわけですね。すると、社員教育は急務ですね。

能作:いや、社員教育はしません

――業績を伸ばすには社員教育が大切、というのは経営書のセオリーじゃないですか。そんな会社見たことありません。「社員教育なくして成長なし」といろいろな経営者が言っていますよ。

能作:社員教育をとことんやって、ぎゅうぎゅうに締めつけても社員は伸びません。僕は「儲けろ! 売上を上げろ! 利益を出せ」と言ったことは一度もないんです。

――ええ? 売上が上がらなかったら会社は潰れてしまうじゃないですか。なぜ、御社は売上も利益も上がっているのですか?

能作:不思議ですよね(笑)。僕の経営方針は多くの経営者とは「」なのかもしれません。

――「逆」とは?

能作:つまりこういうことです。能作には4つの「しない」経営方針があります。

・能作は、「儲け」を優先しない......儲けではなく、「楽しむこと」を優先する
・能作は、社員教育しない......教えるのではなく、自分で気づかせる
・能作は、営業活動しない......営業する側ではなく、営業される側になる
・能作は、同業他社と戦わない......競争ではなく、共創(きょうそう)する

――うーん。にわかには信じがたい。通常の会社とは「真逆」じゃないですか。しかも逆風の地方の伝統産業の中で。ただ、読者には一瞬、きれいごとにうつるかもしれません。ただ、能作さんは「事実」としてできている。なぜできているのでしょう?

能作:キーワードは「地域との共存共栄だと思います。時代は「競争」から「共想」や「共創」の時代に入ってきているのではないでしょうか。

――たしかに、そうかもしれません。ただ、どうしたら、これだけ国内外から若い人、特に女性がたくさん見学にきたり、全国からイキのいい人がたくさん応募してくるようになるのかわかりません。

能作:当社は伝統産業ですが、従業員160人中80人が女性で、管理職の4割が女性です。また、年間約12万人の見学者のうち、約7割が女性です。女性がイキイキしているところに、人は引き寄せられるのではないでしょうか。

――そうだったのですか! 創業103年の伝統産業なのに意外ですね。御社にお邪魔したとき、若い女性がエントランス近くの2500種類の木型の前で写真を撮っていました。あの場所は今や、一大インスタスポットになっているようですね。

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能作:はい。私もびっくりしています(笑)。

――能作さん初の著書、『〈社員15倍! 見学者300倍!〉踊る町工場――伝統産業とひとをつなぐ「能作」の秘密』(ダイヤモンド社)が話題です。ズバリ、読みどころを教えてください。

能作:最近、工場見学にこられた方からも、「能作さんはどんな経営をされているのですか?」と、聞かれることが多くなってきました。

 今回、僕の初めての著書(処女作)を出版するにあたり、能作の経営スタイルについて出し惜しみなく紹介しました。

 この本が、不景気にあえぐ中小企業の、伝統産業の、下請け業者の、さらにはビジネスパーソンの方々のヒントとなれば、著者としてこれほど嬉しいことはありません。

 巻頭・巻末にはカラー口絵として踊る町工場図鑑(32ページ分)があります。ここだけ読んでもおもしろいかもしれません。ぜひ楽しみにしていただけたらと思います。

――それは楽しみですね。ありがとうございました!