ベストセラー『教養としてのワイン』の著者が、数々の一流ワインをオールカラーで解説した注目の新刊『高いワイン』(ダイヤモンド社)が9月19日に刊行された。今回は本書から抜粋する形で、今注目を集める、中国産高級ワイン「アオユン」について紹介します。

標高2000メートル超で造られる
異端の高級ワイン

渡辺順子(わたなべ・じゅんこ)
プレミアムワイン代表取締役。1990年代に渡米。1本のプレミアムワインとの出合いをきっかけに、ワインの世界に足を踏み入れる。フランスへのワイン留学を経て、2001年から大手オークションハウス「クリスティーズ」のワイン部門に入社。NYのクリスティーズで、アジア人初のワインスペシャリストとして活躍。2009年に同社を退社。現在は帰国し、プレミアムワイン株式会社の代表として、欧米のワインオークション文化を日本に広める傍ら、アジア地域における富裕層や弁護士向けのワインセミナーも開催している。2016年には、ニューヨーク、香港を拠点とする老舗のワインオークションハウス Zachys(ザッキーズ)の日本代表に就任。日本国内でのワインサテライトオークション開催を手がけ、ワインオークションへの出品・入札および高級ワインに関するコンサルティングサービスを行う。著書に『世界のビジネスエリートが身につける 教養としてのワイン』『高いワイン』(共にダイヤモンド社)がある。

 2006年頃、ルイヴィトングループのモエヘネシー社が、中国・ヒマラヤの丘陵地でボルドースタイルの赤ワインに適した土地を探しているという噂が流れていました。

 しかし、中国は高級ワイン市場である一方で、ワイン造りは現実的ではないと言われていたため、誰もそのニュースを本気にはしていませんでした。ところが2012年、なんとモエヘネシー社から「ヒマラヤで桃源郷を見つけた」という発表があったのです。

 雲南省の山の奥地に広がる4つの村で見つかったぶどう栽培に最適な地は、標高2200〜2600メートルという高地に位置し、そこで中国初の高級ワイン「アオユン」のワイン造りがスタートしました。2012年には早くもカベルネソーヴィニヨンが植えられましたが、畑が高地にあるため、酸素マスクを着用して、畑の手入れや収穫を行うこともあったようです。

ワイン関係者全員が耳を疑った、ルイヴィトングループによる「中国産」高級ワインの発表モエヘネシー社が手掛ける、中国初の高級ワイン「アオユン」。『高いワイン』(ダイヤモンド社)より抜粋

 アオユンの責任者に抜擢されたのは、ボルドー2級格付のシャトー・コスデストゥルネルのプラッツ氏でした。アオユンの畑はヒマラヤ山脈の影により毎日4時間しか直射日光を受けることができず、ボルドーでは120日でぶどうが成熟するのに対し、160日もの時間を要します。

 プラッツ氏は、それを「弱火でゆっくりと調理して旨味を引き出す料理に似ている」と表現しました。実際、余分な紫外線を受けずにゆっくりと熟していくことで、優しいタンニンが形成されるようです。こうした特殊な環境で育つアオユンは、唯一無二の中国産高級ワインとして、今では地元中国だけでなく、アメリカ市場でも多くの支持を得ています。