『裸の王様』という童話がある。いまの中学生や高校生が、この話をどれだけ知っているか、というリサーチを行なったことがないので、とりあえずは誰もが幼少の頃に学んだ話、ということにさせていただく。

 この童話からは、数々の示唆に富む教訓が導かれる。今回は、上場企業にまつわるコスト管理の話題を提供する前に、次の4つの教訓を確認しておきたい。以下はあくまで、筆者の主観である。

 1つめは、多数派の意見が常識にまで高められると、疑う姿勢をなくしてしまうこと。

 2つめは「あれ? どこかおかしいぞ」と疑問に思うことがあっても、それを理論的に追求するのが困難な場合、人は様子見を決め込むこと。

 3つめは、説明する自信があっても、対象が権威などにまみれて強固なものであるとき、人は自らの道理を引っ込めてしまうこと。

 4つめは、無知は恐ろしい結論を導き出すことがあるので、無知のまま放置しておくほうが、本人も周りも幸せな場合があること、である。

 かくして「裸の王様」が、大通りを闊歩することになる。

上場企業の原価計算が
「ドンブリ勘定」?

 本連載では、数多くの上場企業を取り上げてきた。数多くといっても、筆者の場合は日経平均225銘柄の企業データすべてを把握しているので、本コラムで扱っているのはその一部にすぎない。

 その一部を統計学でいう標本平均とするならば、東証1部上場の母集団(09年12月で1697社)のほとんどが、いわゆる「ドンブリ原価計算」なのではないか、と筆者は疑っている。それ故に、ジェットコースターもどきの業績推移に苦しんでいるのだろう、とも推測している。

 「そんなはずはない。わが社は、厳格なコスト管理を行なっているぞ」と自負するのは、このコラムの終わりまでを読んでからにしていただくことにしよう。

 まずは、「ドンブリ原価計算」の意義を整理しておく。これは、カツ丼や親子丼のように、1杯のドンブリに雑多な具を乗せるところに由来する。

 実際にどのように行なうかは、地方商店街にある八百屋の店頭を思い浮かべて欲しい。

 八百屋では、ヒモでくくりつけたザルを天井からぶら下げて、買い物客から受け取ったおカネを、そのザルに放り込んでいく。野菜用のザルや、果物用のザルを分けて、天井からぶら下げておくのがポイントだ。足許に小さなバケツを用意しておくのでも構わない。

 閉店後、各所に配置したザルやバケツに貯まったおカネを集計していけば、野菜別・果物別などのセグメント別損益計算書がサッとできあがる。これに仕入値を付き合わせていけば「ドンブリ原価計算」の完成だ。