世界のリスクオフ症状はシンクロし、一段の悪化に陥るかどうかの土俵際に来ている。踏みとどまるための鍵は何か。

 ここ半年、米長期金利に連動してドル円が下落、日本株が値を下げる展開は知られる通り。8月にはトランプ米大統領の対中国関税強化の発表で、リスクオフ感があおられ、米国債10年利回りは1.5%割れ、ドル円は105円台、日経平均は2万円台に至った。

 先行き不透明になるほど、人々は手掛かりを求め、個々のリスクオフ指標にとらわれ、がんじがらめとなった。景気悪化のユーロ圏では、金融緩和が再強化され、長期債利回りが急低下し、ユーロ円相場が連動して下落した(上図参照)。米国にたたかれる中国の苦境は、元安に反映され、円高が呼応している(中図参照)。

 欧州と中国の情勢悪化は新興国を引きずり込む。輸出減はもとより、ユーロ安と元安が促すドル高で新興国の通貨が下落すると、彼らのドル建て債務の負担が増す。需要減とドル高は商品相場の下げ要因であり、産出国を圧迫する。

 世界はシンクロして不況の土俵際に来ている。米欧中日PMI(購買担当者景況指数)は全て、好不況の分岐点50を下回った(下図参照)。しかし、辛うじて俵にかかとを残す。

 ドイツの失速は不況間際の欧州に凶兆である一方、欧州がそろって財政政策に向かう点で吉兆でもある。ただし、ユーロ圏の財政・金融政策が自律回復に十分効果的かどうかは疑わしい。ドイツには対中国輸出減が響いている。中国も景気対策に余念がないとはいえ、米中摩擦が続く限りは苦しい。

 つまり、世界のリスクオフのがんじがらめを解くための端緒は米中交渉だといえる。中国が一息つき、欧州が安堵すれば、円相場、日本株も小康しよう。米中の覇権争いは続こうが、トランプ政権が来年の大統領選挙に向けて米景気・株価を支えるべく、中国と何らかの合意を演出する目は十分ある。

 実は米国では金融緩和効果で、景気終盤が永らえる兆候を見せている。下図のサプライズ指数(景気指標の市場予測と実績値の差を指数化)が上向き、懸念されたほど景況は悪くないとの感触から、米長期金利、ドル円、日本株は小反発した。単にテクニカルな反動でも、10月の米中貿易交渉への時間稼ぎになることが中期相場の分岐に響く重要場面だ。

 ただし、ドル円の上値の限られる相場の小康継続と早期の円高・株安によるドルの買い場到来と、どちらが望ましいかは、投資家個々の持ち高の内容次第である。

(楽天証券経済研究所グローバルマクロ・アドバイザー、田中泰輔リサーチ代表 田中泰輔)