或る月の綺麗な夜、都内某所の音楽バーで次のような会話がありました。

「君は未来を信じるかい?」
 「いや、悲観的です」
 「どうして?」
 「目に入ってくるもの耳にはいっていくるもの、全てが悪い話ばかりですから」
 「希望は別に希望の色をしているわけじゃないぜ」
 「どういう意味ですか?」
 「夜明け前が一番暗いんだから、悲惨な状況にこそ希望の種があるってことさ」
 「どうして、そんなに楽観的になれるんですか?」
 「新しいものは、常に混乱の極みのカオスから生まれてきたからさ」
 「そういうもんですか?」
 「そうだ。信じられないかい?」
 「ええ、納得いきませんけど」
 「じゃあ、レディオヘッドのOKコンピューターでも聴きたまえ」
 「はあ…?」

 と、いう訳で、今週の音盤はレディオヘッド「ブリッジ・トゥ・バビロン」です(写真)。

未体験な刺激

 このアルバムは、20世紀の最後の数年間に生み出された全てのロック音楽の中の最高峰です。

 発表されたのは、1997年6月です。もうすぐ20世紀も終わろうかという時期でした。米ソの冷戦が終わったものの、世界は平和の配当を十分に享受した訳ではなく、素晴らしい時代が来るはずだという確信が揺らぎ始めた時でした。