サービス概念の薄い中国人に、日本式「おもてなし」の心を伝える方法業務での目標や身だしなみを声に出して確認する朝礼研修。ゲーム感覚でチームワークを体験でき、中国人受講者には“意外に”好評だった Photo: Coeur Project

日本式エステティックサロンの人気に伴って、中国のサロンへの経営研修を請け負う機会が増えた。しかし、中国人エステティシャンたちに、日本式の肝ともいえる「おもてなし」や「チームワーク」の感覚を実感として伝えることは難しい。どうにかして、楽しみながら理解してもらう方法はないものか。そこで「チームワーク」に関して考えたのが、日本では多くの職場で行われている「朝礼」でのひと工夫だった。(エステサロン運営会社・海外事業統括 八重樫由子)

どうしても伝わらない
おもてなしの感覚

 中国では今、美容ブームを背景に、エステティックサロンが続々と生まれています。その中でも、日本式のサービスを提供するサロンは高級サロンとされていて、そこに通うことは中国の女性にとって一種のステータスになっています。

 昨今は、上海や北京など大都会の若い富裕層たちの間で、日本に静養のため個人旅行をする人が増えています。そんな影響もあって、日本式のサービスの良さが次第に広がりつつあるのです。

 私たちの会社では、中国のサロンに日本式のエステティックを指導する研修事業を行っており、特にこの2~3年は研修依頼の件数が増えています。

 当社が提供する「日本式」とは、技術面もさることながら、お客さまに肌の状態を丁寧にヒアリングし、最も適した化粧品や美容サービスをお薦めして、心身共に美しさを保っていただく、いわば「おもてなしの心」で接するエステティックをいいます。

 この方法でリピーターを増やし、またその方の紹介で新規顧客を増やしてきた日本での実績が中国のサロン経営者たちに伝わって、研修依頼が増えてきたのです。

 受講者は、中国のサロン経営者、およびスタッフのエステティシャンたちであり、主に当社の社長と私が講師を務めますが、ここでも日中の価値観や習慣の違いによる、理解の壁にぶち当たることがしばしばあります。

 まず、何といっても「おもてなし」の意味をなかなか理解してもらうことができません。これまでの回でもお話ししたように、中国人は何よりも自分の意思を優先しますから、基本的に「見知らぬ人にサービスをする」という概念は持っていません。他者への貢献心が強い日本人とは、国民性が大きく異なる点です。

 例えば、研修で「お客さまには笑顔で」と話しても、ほぼ100%の割合で「楽しくないのに笑えません」という返事が返ってきます。

 そんな中国人の受講者たちが、なぜ、エステの仕事に就いたかといえば、冒頭でお話ししたような理由から、「日本式のエステは今後、儲かる商売だと思うから」です。経営者は言わずもがな、スタッフたちも、「いずれは、自分が経営者になって効率良く儲けること」を第一に考えています。中国の若い人の間では、経営者になってこそ豊かになれるという風潮が非常に色濃いのです。

 ですから、「スタッフ全員が笑顔で対応するサロンの方が、そうでないサロンより売り上げが上がる!」という説明を、粘り強く一から行う必要があります。