株式市場は、8月のリスクオフはどこへやら、失地を一部回復した。契機は、米政権が中国との貿易交渉再開に前向きな姿勢を見せたことだ。

 米金利と共に下落したドル円は105~110円レンジ上方に値を戻し(上図参照)、ドル円の回復と連動して日本株も反発した(中図参照)。この相場は2020年へどうつながるか。

 ここまでの展開を振り返ろう。18年は、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げに伴って、米長期金利が3%を超え、住宅市場失速、株価下落、ドル円下落と典型的なステップを踏んで、土俵際の様相に至った。しかし19年早々、FRBが低インフレの持続を確認し、利上げをやめた。やがて利下げを織り込む米長期金利は1%台に低下し、住宅市場は反発へ。

 ここで、20年の選挙で再選を目指すトランプ米大統領が、景気と株価を支持するために、中国問題で波風を立てなくなれば、相場は「土俵の半歩内側」に戻れるはずと想定した。ところが、トランプ大統領は今年5月と8月に対中関税の強化を発表し、米国を土俵際に追い込んだ。一見場当たり的に思えたが、あくまで結果的には、選挙戦術として筋が通っている。

 米景気は終盤にあり、対中姿勢の緩急だけでは下支え効果に疑問符が付く。FRBに2回利下げさせた効果ははるかに大きい。その上で、米中暫定合意をうかがわせて、首尾よく相場を「土俵の半歩内側」に戻したという次第だ。

 相場は20年にかけて「土俵の半歩内側」にとどまる目がある。米経済は、利下げ、超党派法案の積極財政の下支えが想定される。

 景気後退寸前のユーロ圏経済は、米中摩擦緩和、ドイツの財政出動と自動車部門の調整一服が支持しよう。成長が6%まで減速した中国も、金融緩和、インフラ投資による景気支持に余念がない(下図参照)。5G(第5世代通信規格)普及に向けた半導体回復のミニサイクルも重なろう。

 視野を21年へと広げると、景気も株価も新たな上昇サイクル入りは考えにくい。すでに完全雇用に至った米国は、景気サイクルの終盤が永らえるだけだろう。再利下げで膨らむ企業債務も気掛かりだ。

 欧州は、底堅さを見せても、自律回復力は乏しいとみる。中国は景気対策が非効率な信用を膨張させている。米大統領選挙後には、共和党、民主党どちらの政権でも対中強硬姿勢を再開しよう。

 ドル円は「土俵の半歩内側」の105~110円レンジ上方に当面とどまるにしても、20年末100円、21年95円へというリスクオフの下落基調観に変わりない。

(楽天証券経済研究所グローバルマクロ・アドバイザー、田中泰輔リサーチ代表 田中泰輔)