16万部を突破したデビュー作『転職の思考法』で、「このまま今の会社にいてもいいのか?」というビジネスパーソンのモヤモヤに答えを出し、「転職は悪」という既成概念を打ち破った北野唯我氏。いま、人材マーケット最注目の論客であり、実務家だ。
その北野氏が、今回選んだテーマは、「組織」。自身初の本格経営書『OPENNESS  職場の「空気」が結果を決める』では「ウチの会社、何かがおかしい?」という誰もが一度は抱いたことがある疑問を科学的、構造的に分析し、鮮やかに答えを出している。
なぜ、グーグルやネットフリックスの組織戦略が注目されているのか。なぜ、これからの時代は「オープンな組織」が勝ち残るのか。なぜ、あなたの職場は今日も息苦しいのか。本連載では、これらの疑問について、独自の理論とデータから解説する。

結果を出すリーダーが「職場の空気」を気にするワケPhoto: Adobe Stock

事業、場所、組織へのコミット量が変わった

「職場の○○が、企業の結果を決める」

 みなさんはこの○○に何を想起するでしょうか? たとえば、リーダーが結果を決める、ビジネスモデルが決める、環境が決める……など、さまざまではないでしょうか。

 私の答えはシンプルです。それは、「空気」――これが、840万人の内部クチコミ(職場環境のデータ)から導かれた1つの答えでした。
 たとえば、スポーツの世界は正直です。さっきまで絶対にいける!というチームの雰囲気だったのが、あるミスをきっかけに一気に、敗戦ムードになる。こういうことがままあります。今回はこの「職場の空気」がなぜ、企業の結果(業績、株価)を決めるのかの構造的な理由について考えていきたいと思います。

 まず、この「空気」というぼんやりとしたものを考えるためには、そもそも「従業員は何にコミット(約束)しているか?」を考える必要があります。本来、人がどこかの企業で働くとき、企業は従業員にいくつかのコミットメントを求めます。1つめは「事業」、どんなビジネスをするか。2つめは「場所」、どこで働くか。3つめは「組織」、どんなチームで働くかです。
 その意味で「従業員の士気」、すなわち空気がよくなれば事業もよくなりやすいというのは至極当然な結論です。でも、真の問題は「従業員のコミットメント量の増減」にあります。

 VUCA(変動性〈volatility〉、不確実性〈Uncertainty〉、複雑性〈Complexity〉、曖昧性〈Ambiguity〉)の時代、つまり変化のスピードが速くなるということは、事業の寿命が短くなるということです。その結果、たとえば事業部Aで働きたくて入った社員も、10年後には事業部A自体がなくなっている、ということがありえます。
 あるいは、ソフトウェアのビジネスはハードウェアのビジネスに比べて「物理的な場所」への制限が弱い傾向にあります。工場に張り付く必要がない。つまり、近代の変化というのは、「何にコミットするのか」の重要度が相対的に変化したことを意味します。

 言い換えると、経営は「事業」や「場所」だけではなく、「組織」へのコミットメントが相対的に重要になった、ということです。そして前述の通り、この時代、事業の移り変わりは激しい。ですので、経営者は組織へのコミットメントを以前より強化しない限り、事業のピボット(方向転換)に対応しづらい。こういう構造だと私は思います。
 ちなみに、これが、グーグルやネットフリックスといったソフトウェアの会社の人事戦略が世界的に注目を浴びるようになった構造的な理由でもあります。