膝痛写真はイメージです Photo:PIXTA

 国内におよそ800万人の患者がいると推定される「変形性膝関節症(膝OA)」。

 整形外科領域では腰痛に次いで2番目に多い疾患だが、日本には診療ガイドライン(GL)がなく、今のところ関連する国際学会のGLを翻訳して利用している。

 国際GLは5年ごとに改訂され、今年7月に「非手術療法」に関する最新版が公開された。それによると、治療の核は生活の見直しや運動療法が中心。軽めの運動でも毎日続けることで進行抑制が期待できる。太ももや膝関節周りの筋トレも「裏切らない」。

 痛みが強くなってきた場合は飲む消炎鎮痛薬よりも湿布薬や塗り薬が推奨された。湿布薬のドラッグデリバリー機能──有効成分を患部に届ける能力や消炎鎮痛の有効成分そのものが進化し、飲む痛み止め並みの効果が期待できるようになったことが一因だろう。

 特に胃・十二指腸潰瘍持ちや、すでに血液サラサラ薬を飲んでいる人は、アスピリンなどの飲む非ステロイド性消炎鎮痛薬を上乗せすると出血リスクが高くなる。冠動脈疾患リスクも指摘されており、心臓病の既往がある人は湿布薬を使う方がよさそうだ。

 従来よく使用されてきたアセトアミノフェン(ロキソニンなど)も、肝機能障害リスクなどを理由に弱い推奨に変更された。薬局で手に入るのでつい使ってしまうが、長期間の連用には注意が必要だ。

 また従来、欧米では「単なる気休め」扱いされてきたヒアルロン酸の関節内注射が、消炎鎮痛効果を期待できるステロイドの関節内注射と並んで推奨された。

 今回、患部への直接的な治療(局所療法)の推奨度が上がった背景には、米国で社会問題化したオピオイド鎮痛薬(医療用麻薬)の乱用があるようだ。実際、オピオイドは貼付剤、飲み薬ともに最低ランクの推奨にとどまった。

 日本でも膝OAなどに伴う慢性疼痛に弱オピオイドが処方される。この際、100%痛みを除くことに拘ってしまうと乱用に結びつきかねない。医師と相談して治療の目標を「痛みはあるが生活に支障はない」などに置き、ほかの治療法と併せて適度に利用しよう。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)