トランプ米大統領とマクロン仏大統領Photo:Reuters

――筆者のグレッグ・イップはWSJ経済担当チーフコメンテーター

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 アマゾン、フェイスブックといった巨大ハイテク企業の台頭は、中国の国家資本主義の台頭と同様に、世界各国の経済に悪影響をもたらしている。だが国際的な課税・貿易のルールはこうした動きに対処できるように設計されていない。

 理想的には、考え方の近い国々が協力して、これらの新しい勢力に対応できるようルールを書き変えるべきだ。しかし今週起きた一連の出来事は、各国が独自の道を選び、世界の貿易システムをさらに弱体化させていることを示している。

 米トランプ政権は今月2日、デジタルサービス税を導入したフランスへの報復措置として同国産品に高率関税を掛ける案を発表した。米通商代表部(USTR)は、世界的な解決策が必要な問題について、法的な正当性が疑わしい対策をフランスが一方的に適用したと批判した。3日にはスティーブン・ムニューシン米財務長官もこれに呼応し、36カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)への書簡の中で「われわれは、OECDが多国間の合意に到達できるようにするため、すべての国にデジタル課税の取り組みを停止することを求める」と述べた。

 これは、かなり皮肉な展開だ。ドナルド・トランプ大統領は昨年、世界的問題を解決するために、自ら打ち出した一方的で法的正当性が疑わしい対応策を立法化させた。中国に起因する鉄鋼の供給過剰に対応するための関税だ。トランプ氏は2日、輸入鉄鋼への追加関税を、ブラジルとアルゼンチンにも適用する方針を明らかにした。

 デジタル課税や鉄鋼関税をめぐる対立で誰が「勝者」になるかという議論は的外れだ。米シンクタンクの外交問題評議会の通商問題専門家ジェニファー・ヒルマン氏は、一方的な対応策の増加は、世界を「力に基づく弱肉強食の、力こそ正義のシステム」に近づけると語る。

 OECDの作業部会は2015年には既に、デジタル化が多国籍企業の納税回避の重要な手段になると指摘していた。

 現在は、企業がある国で物理的な拠点を持たなければ、その国では法人税や付加価値税の納税義務を負わないのが普通だ。つまり、米国のソーシャルメディア企業はフランス国内に拠点を持たなくても、何百万人ものフランス人ユーザーからデータやコンテンツを集め、それを元にフランス企業に広告スペースを売ることができるが、フランスに税金を払わずに済む。

 2016年には、米仏を含む100以上の国の代表から成るOECDの新たな作業部会が、電子商取引への課税を巡る国際基準の改定案に着手した。欧州連合(EU)は2018年、フランスの要請を受けて、国境を越えたデジタルサービスの提供企業の売上高への課税を提案した。しかし、承認に必要な全会一致の支持を得られなかった。このためフランスは今年、独自に3%のデジタル課税を立法化した。