大統領の罷免を求める人々Photo:Reuters

――筆者のジェラルド・F・サイブはWSJのチーフコメンテーター

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 民主主義は決して政府の最良の形態を意図したものではなかった。むしろ民主主義の美徳は単に、統治される側の利益を統治する側の利益より優先することにある。

 しかし今日、世界中の民主主義国家は通常よりも混乱し、機能が低下しているように見える。独裁的リーダーらがこうした傾向を声高に指摘し、そこにつけ込もうとする一方で、民主的リーダーらは何かが軌道を外れてしまったのではないかと思案に暮れている。

 米国では党派間の分断が進む中、ドナルド・トランプ大統領が弾劾訴追を受けている。米上院は間もなく、トランプ氏を罷免するかどうか投票にかける。英国では2016年に有権者が欧州連合(EU)からの離脱を選択した後、政府はその方法について合意するまでに3年間を要し、3人の首相がもがき苦しんだ。

 カナダのジャスティン・トルドー首相は、与党が議会の過半数を維持できなかったため、少数派政権を率いようとしている。西側リーダーのまとめ役だったドイツのアンゲラ・メルケル首相は引退に向かっており、同氏が属するキリスト教民主同盟(CDU)が連立与党の結束を保てるかどうかは不透明な状況だ。ブラジルでは、元軍人のジャイル・ボルソナロ大統領が民主的な諸機関を批判しており、一部市民の間で民主主義への支持が薄れていることが世論調査で明らかになっている。

 民主主義諸国の中で最も人口が多いインドでは、世俗主義から宗派対立への流れが進行しているとみられ、緊張が高まっている。イスラエルの首相は起訴されており、同国の指導者らは激しい対立が続く中で、何度選挙を繰り返しても組閣ができない状況にある。

 民主主義の拡大を支援する国際組織「民主主義・選挙支援国際研究所」は、数週間前に発表した報告書の中で「民主主義は脅威にさらされており、民主主義の約束の復活が求められている」と強調した。同様に、バンダービルト大学の研究者らも最近「米州の民主主義はさらなる後退のリスクに直面している」と結論付けた。

 いま問われているのは、民主主義が現在抱える問題が、単に民主社会にとって不可避の周期的な修正局面の1つなのか、それとももっと腐食性の高い現象を示すものなのかということだ。

 「世界中の民主主義の健康状態の悪化は深刻だが、決して末期的ではない」と国際経験が豊富なウィリアム・バーンズ元米国務副長官は話す。「多くの民主主義国は深刻な統治危機に直面している。国民に奉仕する能力をまひさせる一連の機能不全だ」