自社に必要な経営戦略を見極めるには「競争の型」を理解せよ
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サマリー:前回は、SCPとRBVはそもそも前提としている『競争の型』が異なるため、SCPとRBVの有効性は、事業環境がどのような「競争の型」かによって異なることを学んだ。今回は、近年増えてきた「シュペンター型」と言われる競... もっと見る争の型を解説するとともに、ポーターが「日本企業には戦略がない」と言う理由に迫る。本稿は『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社、2019年)の一部を抜粋し、紹介したものである。 閉じる

──前回の記事:ポーター vs. バーニー論争に決着はついている(連載第24回)

「日本企業に戦略はない」は本当か

 1991年にRBV理論に関する著名な論文を発表したバーニーであるが、遡ること5年の1986年に『アカデミー・オブ・マネジメント・レビュー』(AMR)で“Types of Competition and the Theory of Strategy”というタイトルの論文を発表した。その内容は「SCPとRBVは、そもそも前提としている『競争の型』が異なる」というものだ。両理論はどちらも重要だが、その「程度」は企業の置かれる競争環境によって異なる。そしてその違いを明確にした。本論文でバーニーは「企業の競争には3種類の型がある」と述べており、前回までにそのうちの2種類、「IO型」と「チェンバレン型」を紹介した。図表1を参考にしていただきたい。

 ここで興味深い逸話を紹介しよう。それは著名経営学者であるマギル大学のヘンリー・ミンツバーグが、世界的ベストセラーである『戦略サファリ』で引き起こしたマイケル・ポーターへの批判だ。

 ポーターは1996年に『ハーバード・ビジネス・レビュー』に発表した論文のなかで、“Japanese Companies Rarely Have Strategies”(ほとんどの日本企業に戦略がない)という題名のコラムを設けて、現場のオペレーショナル・エクセレンスだけに頼る日本企業に懐疑的な視点を投げかけている(※1)。ポーターの目からすると、日本企業は戦略というものを持っていないようなのだ。

 これに対してミンツバーグは、トヨタ自動車のように世界的に成功している日本企業を引き合いに出して、「日本には業績の高い企業がいくつもあるのに、なぜポーターは日本企業に戦略がないと言うのか」と批判する。「トヨタはポーターに戦略のイロハを教えてやるべきだ」とまで書いているのだ(※2,3)

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図表1

 ポーターは日本企業に戦略がないと言い、ミンツバーグはあると言う。しかし、皆さんには両者にこのような齟齬が出る背景が、すでにおわかりではないだろうか。2人が前提としている「競争の型」がそもそも異なっているのだ。

 たしかに以前の日本企業には、IO型の競争環境で、SCP戦略を取るような企業、つまりポーター的な意味での戦略は希薄だったかもしれない。むしろ「自社の技術力・人材力を磨いていけば、製品は自然に売れる」という考え方の企業も多かった。これは極めてRBV的な考え方といえる。

 実際、これまで優れた技術力・製品開発力等で世界的に注目されてきた日本企業は、自動車メーカーや家電メーカー等、国内でも競争が激しく(日本には8社も乗用車メーカーがある)、国際競争にも早い時期からさらされてきた。しかもこのような業界では、多くの企業の間で製品・サービスが差別化されている。すなわち、チェンバレン型の競争に近い。チェンバレン型に近いから「技術力」「人材力」のような、RBV的な説明が説得力を持つのだ。

 その意味では、ミンツバーグが言うように、日本企業にもある意味戦略があったといえるかもしれない(もしRBVを戦略というのなら、だが)。反対に、戦略的に参入障壁を高めたり、移動障壁を築いたりしたこと(=ポジショニング)で国際的に成功した企業は少なく、したがって、SCP重視のポーターが「日本企業に戦略がない」と言うのも、ある意味当然なのである。