『HOW FINANCE WORKS ハーバード・ビジネス・スクール ファイナンス講座』は、ハーバード大学のオンラインのファイナンス講座(Leading with Finance)をベースにテキスト化された教科書です。ファイナンスの教科書といえば、堅苦しいイメージですが、本書は少しイメージが違います。アマゾン、ネットフリックス、スターバックス、アップル、ナイキ…誰でも知っている企業の最新の財務データを使って、経済ニュース、金融ニュースなどをからめながら基礎的なファイナンスの知識を身に着けていきます。そのエッセンスをコンパクトに紹介します。

ハーバードで教えるアマゾンの成長力、最大の秘密Photo: Adobe Stock

アマゾンはいかに成長し、さらに成長するのか

企業の財務モデルに占める運転資金のパワーを見るために、アマゾンを例にとろう。アマゾンは在庫、売掛金、買掛金を管理しているが、そのやり方の巧みさから、いわゆるマイナス運転資金サイクル、あるいはマイナス現金循環化日数になっているのだ。

通常の店舗では、運営上で資金調達の必要がある場合が多い。しかし、カナヅチを買ったり売ったりすることでキャッシュが出ていくのではなく、キャッシュが生み出される世界を想像してほしい。それがまさにアマゾンのケースだ。

2014年、アマゾンの在庫日数は平均46日、顧客からの回収期間は平均21日だった(小売業者としてはやや長めなのは、クラウド・コンピューティング事業があるからだ)。おまけにアマゾンは市場で絶対的な力を持っているから、そのパワーをふるってサプライヤーへの支払いを待たせることができる。

だからサプライヤーへの支払期間は平均91日間となっている。したがって現金循環化日数は、マイナス24日間になる。

要するにアマゾンでは、ビジネスがキャッシュを生み出す源になっている。その点ではアップルも同じだ。彼らは運転資金サイクルのおかげで、外部の資金調達に依存することなく急速に成長を遂げている。運転資金から生じるキャッシュは、彼らのビジネスモデルの一部にパワフルに組み込まれているのである。

実質的には、サプライヤーがアマゾンの成長のために資金を供給している。両社とも運転資金サイクルによる安上がりの資金調達を、外部の資金調達代わりに利用している。そしてその運転資金の結果、とてつもない経済的利益を生み出している。これはEBITDAにもEBITにも、当期純利益にも表れてこない。

図のように、営業キャッシュフローは、純利益から始めて非現金費用(とりわけ減価償却費、株式報酬)を調整し、最後に運転資金の効果を調整することで、キャッシュの天国、フリーキャッシュフローへの旅へと進んでいく。