JA大淘汰#4Photo:da-kuk/gettyimages

JAグループを牛耳ってきた“政治組織”であるJA全中(全国農業協同組合中央会)が解体されて以降、農協中央会の凋落は目を覆わんばかりだ。その一方、農協への影響力を強めているのが農林中央金庫だ。600人の職員を地域農協などに派遣し、中央会の存在理由である農協の経営指導の領域を侵し始めたのだ。特集『農業激変 JA大淘汰』(全9回)の#4は、全中と農中の間で繰り広げられる主導権争いに迫った。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

存在意義を失った「全中」
TPP、選挙で歴史的敗北

「JA全中は要らない」「全中は近年の体たらくの責任を取っていない」――。最近、農協関係者が会議の場などで公然と全中を批判するようになっている。

 元来、全中はJAグループの頂点に君臨する組織だった。だが、2015年の農協改革で地域農協に言うことを聞かせるための「伝家の宝刀」である農協への監査権限が剥奪されると、監査部門の分離を余儀なくされ、組織解体の憂き目に遭った。

 農協法で認められていた監査権限を失うと、従来は全中に従うのが当然と考えていた地域農協にも、「なぜ全中はあれほど偉そうだったのか」「予算の使い方が不透明だったのではないか」などといった疑問が生じるようになった。

 全中はJAグループを代表して政府に要請活動を行う圧力団体でもあるが、その政治力の源泉だった“集票マシン”としての力も失った。

 そのきっかけとなったのが、JAグループが組織を挙げて反対した環太平洋経済連携協定(TPP)への日本の参加を許したことだろう。全中にとって、TPP参加という結果は歴史的敗北に等しかった。

 TPPが決着した今、かつての米価運動のように農業関係者が一丸となって運動を展開する「政治テーマ」は見当たらない。

 全中の凋落は、昨年の参議院議員選挙で如実に表れた。全中や、都道府県レベルの農協中央会の“首領”で、事実上の最高権力者である山田俊男議員の得票数が激減したのだ。

 山田議員は本特集の#3『全農幹部暴行事件をもみ消した「JAグループのドン」45万票国会議員』で詳述したように暴行事件を起こすなど、政治家としての資質に問題がある人物である。だがそうした本人のパーソナリティーはさておき、全中には農業関係者に集票を促せるほどの統率力など残っていないという本質的な問題を抱えているのだ。

 もはや全中に存在意義はない。

 そんな全中の凋落を尻目に、JAグループ内で主導権を握りつつあるのが農林中央金庫(農中)だ。