デジタル・トランスフォーメーション(DX)の時代を迎えたいま、企業の財務経理部門においては、これまでにない投資やビジネスを進める”攻め”の意思決定を下していくことが、新たな課題となっている。注目のAI(人工知能)ベンチャーとして大企業と協業することも多いABEJA(東京都港区)のCFO(最高財務責任者)とUse Case事業部長に、デロイト トーマツ CFOプログラムの中核メンバーである2人が、DX推進のために大企業とスタートアップ企業はどう協業すべきかを聞いた。

株式会社ABEJA
取締役CFO
加藤道子

株式会社ABEJA
Use Case事業部長
佐久間隆介

デロイト トーマツ グループ 
CFOプログラム カントリーリーダー
信國 泰

デロイト トーマツ グループ 
CFOプログラム
近藤泰彦

左よりデロイト トーマツ グループ(DTG)の信國氏、ABEJAの佐久間氏と加藤氏、DTGの近藤氏

事業計画に柔軟性を持たせ見直すことも躊躇しない

信國 イノベーションの創出に向けて、AIをはじめとした新しいテクノロジーの活用を模索するものの、実際のユースケースに至らない大企業が多いのが実情です。AIベンチャーである御社から見て、大企業が新しいテクノロジーをうまく活用することができない要因は何だと思いますか。

佐久間 テクノロジーの活用を検討する企業は増えており、デジタル・トランスフォーメーションに関する教育投資も活発化していますが、それに比例して、AIをはじめとしたテクノロジーを組み込んだ事業や業務がどんどん生まれているかというと、残念ながらそうなってはいません。

 試行錯誤を許容しない文化や意思決定プロセス、投資基準などが阻害要因になっている可能性があります。そこを突破できるだけの経営者の強い意志や仕組みがないと、「AIに投資をしても、ROI(投資利益率)を予測できないよね」という声に押され、取り組みは停滞してしまいます。

信國 新しい価値を生み出すためには、ROIが不確実な段階でも投資することが必要な場合があり、そこはCFOの目利き力が求められます。また、結果的にリターンを得られることもあれば、そうでないケースもあり、後者の場合にはいかに早く損失を確定するかという出口戦略の実行が重要なカギを握ります。御社の場合は、どのように見極めを行っていますか。

加藤 私たちは「会社が変わらないことがリスクである」と考えています。グローバルでのマーケットの変化やテクノロジーの進化のスピードがどんどん早くなる中、みずからの既存のビジネスモデルの変革を続けていく。そうしないと、生き残っていけないという前提条件に立っていますから、5年、10年の長期で見た時に意味のある投資になると信じて、取り組んでいます。

 例えば、日本企業のクロスボーダーM&A(合併・買収)は失敗事例が多いといわれながらも、海外企業への投資が増え続けているのは、買わないと他社に先を越されてしまったり、市場で取り残されてしまったりするという危機感が働いているからだと思います。AIやテクノロジーへの投資も似たようなところがあるのではないでしょうか。

近藤 大企業の場合、AI活用を織り込んだ事業計画を描けない、あるいは描こうとしても時間がかかるため、結果的に動きが遅くなるということが往々にしてあります。御社は、事業計画の策定から投資に至るプロセスをどう管理しているのですか。