かつて世界ヘビー級統一王座に君臨し、ボクシング史上「最も記憶に残る」存在であるマイク・タイソン。彼は栄光と転落を繰り返し、リング上だけでなく、私生活においても数々のセンセーションを巻き起こしてきました。そんなタイソンの規格外の仰天エピソードを彼の著書『真相:マイク・タイソン自伝』から4回にわたってお届けします。今回は、妻があの超大物俳優ブラッド・ピットに寝取られたというお話……。

怯えるブラッド・ピット

史上最年少で世界ヘビー級タイトルを獲得し、飛ぶ鳥を落とす勢いだった1980年代後半のタイソン。そんな頃、彼はテレビに出演していた一人の美しい黒人女性に心を奪われる。さっそく八方手を尽くして彼女の連絡先を調べ、ディナーの約束を取り付ける。美女の名はロビン・ギヴンス。タイソンの最初の結婚相手になる女性だ。だが、ロビンは名うてのセレブハンターだった。2人の結婚生活はあっという間に終わりを告げ、莫大な慰謝料を巡って泥沼の離婚協議を繰り広げることになる。そんなときに事件は起こった──。

妻をブラッド・ピットに寝取られた!? 踏んだり蹴ったりのマイク・タイソン1988年、タイソンはロビン・ギヴンスと結婚。彼女との出会いが、タイソンの運命を大きく狂わせていった。

[以下『真相:マイク・タイソン自伝』より]

 ロビンとの離婚協議は続いていたが、そんな状態でもロビンとは会っていた。ロサンジェルスにいるときは、セックスだけが目的で訪ねていった。いちど、ランボルギーニ・カウンタックであいつの家に乗りつけたことがあった。ドアをノックしたが返事がない。妙だな。車に戻っていくと、見覚えのある白いBMWのコンバーティブルが見えた。見覚えがあってあたりまえだ、俺がロビンに買ってやったんだから。

 ”ありがたい、まだ急げばやっていける”と思ったら、助手席にブロンドの髪をなびかせた白いシルエットが見えた。ちきしょう、たぶん、『ヘッド・オブ・ザ・クラス』[ロビンが出演していたテレビ番組]に出演している仲間だろう。ところが、よく見ると男だった。フェラチオしていたのかもしれない。二人が車を停めて降りてくると、男はブラッド・ピットだった。

 家の前に立っている俺を見たブラッドの顔ったら、見せてやりたかったな。まるでいまわの際のようだった。そのうえ、酔ってフラフラだった。俺の顔を見たとたん、腰が砕けそうになった。「お、おい、殴るな、殴らないでくれ。ちょっと台詞の読み合わせをしていただけだ。彼女はずっとあんたのことを話していた」

「お願い、マイケル、お願いだから、何もしないで」と、ロビンが叫んでいた。死ぬほどおびえた表情で。だが、誰もぶちのめす気なんかなかった。あいつのために刑務所へ行く気はなかったし、離婚する前にちょっと一回と思っただけだ。

「あとにして、マイク」彼女は言った。「家にはいるから、またにして」

 これが現実だ。あの日はブラッドに先を越されたから、次の日にした。

 離婚が成立したのは2月14日だ。皮肉な話だろ? ロビンはそれなりの現金を手に入れ、俺が買ってやったひと財産分の宝飾類も全部そのままあいつのものになった。”鬼婆ルース”[ロビンの母]はロビンの戦利品の一部でニューヨークに〈ネヴァー・ブルー・プロダクションズ〉というインディ映画の製作会社を立ち上げた。

 ハリウッドのプロデューサーで友人のジェフ・ウォルドが、俺の代理人にハワード・ワイツマンを薦めてくれた。こいつは凄腕だった。離婚協議中、ロビンは自分に振り出された高額の小切手は有効と主張した。下の線に”マイク・タイソンからの贈り物”と書かれていたからだ。しかしあいつは、銀行が小切手を全部マイクロフィルムに記録していることを知らなかった。ハワードはマイクロフィルム化された元の小切手を拡大して、厚紙に貼りつけ、書かれていた内容は小切手が現金化されたあとロビンが書き足したものであることを立証してのけた。

 ロビンは俺のランボルギーニも手元に残そうとした。自分のガレージに入れて、俺に持ち出されないよう扉の前にセメントブロックを置いたんだ。だがそのくらい、ハワードにはどうってことなかった。元モサド[イスラエルの諜報機関]の私立探偵を何人か雇うと、彼らは誰も起こさずに20分で車を出してきた。

 晴れてロビンから解放されたが、気分は高揚するどころか、どっぷり落ち込んでいた。あいつとはもう夫婦でいたくなかったが、これまでの経緯に屈辱を感じていた。自分が半分に縮んでしまった気がした。裏切られただけでなく、衆人の目に一部始終がさらされたのが惨めでならなかった。あそこまで他人にいいようにされたのは初めてだ。あいつのためなら死んでもいいと思っていたのに、もうあいつが死のうが全然かまわない。愛はなぜこんなふうに変わってしまうんだ? 冷静になって当時を振り返るにつけ、ロビンと母親のルースは本当に嘆かわしい人間だった。カネのためには手段を選ばなかった。あの二人にとってカネは紙の血液だったんだな。

(次回は、あのスーパーモデルとタイソンのラブロマンスをご紹介! お楽しみに!)