何のために仕事をするのか?
あなたにもある流されない「心の錨」

「皆さんは、何のために仕事をしていますか? 最も重要な理由を1つだけ挙げてください」

 こう言われたとき、あなたはどんな回答をするだろうか。「お金のため」という回答もあるだろうし、「ある専門分野を極めるため」という回答もあるだろう。また、「家族とともに幸せに暮らすため」という考えもある。

 このように、仕事をする理由や価値観の中でもっとも重要なものを、「キャリア・アンカー」と呼ぶ。マサチューセッツ工科大学ビジネススクールの組織心理学者であるエドガー・シャインが考えた言葉だ。

 アンカーとは、船が使う錨(いかり)の意味である。錨がないと船は留まることができずに流されてしまう。キャリア・アンカーとは、仕事をする上での錨であり、それがなければ他のことに流されてしまいかねないほど重要な価値観や欲求を指す。

 シャインによると、このキャリア・アンカーを知らなければ、仕事には様々な困難が伴うという。たとえば、人事異動で営業職から事務職に移ることになった場合、自分にとって営業でのスキルを極めることがキャリア・アンカーならば、事務職への異動は非常に不快なものとなる。

 そんな職場でいやいや仕事をしていては、パフォーマンスも上がらない、ひいては、将来の昇進やキャリアアップにも響いてしまう。

 もう1つ、チームで仕事をする場合にもキャリア・アンカーを知っておくことが重要だ。チームのメンバーが仕事に対してバラバラな価値観を持っていては、チーム全体の方向性が定まらなくなる。そればかりか、お互いの価値観が違っていることすらわからないままコミュニケーションを取ろうとすると、喧嘩や罵り合いが起き、お互いの信頼が崩れてしまう。

 このコラムで何度も述べているように、現在は職場の人材流動性が高く、仕事に対する考え方も世代間でバラバラだ。