新型コロナウイルスの感染拡大により、人々の生活は一変しています。働き方はもちろんのこと、育児、そして介護をしている人も、先の見えない不安に翻弄されています。施設に入居している家族との面会が叶わなくなった方、介護サービスの自主的休業によって予期せぬ負担が一気に増して戸惑っている方、在宅勤務と在宅介護が重なり、認知症の家族への日中の対応に悩む方も多いです。認知症の祖母、重度身体障害の母、知的障害の弟、の家族3人を21年間にわたって1人で介護した経験を持ち、のべ1000人以上の介護者の相談に受け続けている筆者が、介護者が今まさに直面している負担を少しでも軽減するポイントをお伝えします
（介護者メンタルケア協会代表、理学療法士 橋中今日子）
（ｃ）清水貴子橋中今日子（はしなか・きょうこ）
理学療法士
リハビリの専門家として病院に勤務するかたわら、認知症の祖母、重度身体障害の母、知的障害の弟、の家族3人を21年間にわたって1人で介護する。仕事と介護の両立に悩み、介護疲れをきっかけに心理学やコーチングを学ぶ。自身の介護体験と理学療法士としての経験、心理学やコーチングの学びを生かして、介護と仕事の両立で悩む人、介護することに不安を感じている人に「がんばらない介護」を伝える活動を全国の市区町村で展開中。企業では、介護離職防止の研修も担当。ブログ「介護に疲れた時に、心が軽くなるヒント」では、「介護をしていることで、自分の人生をあきらめないで！」「あらかじめ対策を知っておくことで、問題は回避できます！」といった介護疲れを解消し、心がラクになる情報を発信中。NHK、TBSほか、テレビやラジオでも活躍中。
非常事態宣言を受けて寄せられる介護者の方のお声を聞いて、気がかりなことがあります。
それは「取り返しのつかないことになるかもしれない」「私がなんとかしなければ！」と緊迫した中で、介護をしている方が多いことです。とても興味深いことですが、在宅介護の方をしている方以上に、通いで介護している方や施設に入居しているご家族の方がその傾向が強い印象を受けます。一緒に暮らせないからこそ、離れているからこそ、責任感をより感じられているのかもしれません。
入院中、施設に入居中の家族に会えず、苦しい状況が続いている方も多いです。
「施設入居中の母に会えない。認知症の症状がさらに進んで、もう自分が娘だとわからなくなるのではないかと考えると涙が止まらない」
Dさん（40代・女性）には、若年性認知症を患い認知症グループホームに入居している母親（60代・要介護3）がいます。Dさんは毎週末グループホームに通い、亡くなった父親の写真を見ながら母親と話す時間を大切にしていました。
ところが、3月上旬から「状況が落ち着くまで面会禁止とさせていただきます」と施設から書面で連絡が入りました。
「他府県の施設では、インターネットを使ってビデオ通話で面会を始めている施設もあるけれど、母が入所しているところでは何の連絡もありません。もちろん、施設の職員さんたちが大変な状況にあることも理解しているので文句を言うつもりはありません。だけど、もしかしたら母は私のことを忘れてしまうかもしれない。しばらく会えないというだけの問題ではない。この気持ちをどこに持っていったらいいのか、本当に苦しいです」
Dさんのように「面会しないことで、病状が進行してしまうのでは」という、苦しい声がたくさん寄せられています。
