ZホールディングスとLINEの経営統合、メルペイによるOrigamiの買収、Japan TaxiとMOVの事業統合など、昨今、スタートアップの事業・経営統合の事例が増えてきました。今回は、スタートアップの合従連衡について考えます。

JapanTaxiとMOVに見るスタートアップの合従連衡についてPhoto: Adobe Stock

Japan Taxi・MOV 競争戦略としての事業統合

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):先日(2020年2月4日)、Japan TaxiとMOVの事業統合が発表されました。また2019年には、Zホールディングス(旧ヤフー株式会社)とLINEの経営統合も発表され大きな話題になりました。

ZホールディングスとLINEはネット業界を代表する2大巨頭によるディールであり、同業界における2019年の一番大きなニュースであったのではないかと思いますが、昨今、未上場のスタートアップを含め、様々な経営統合・再編が進んでいるような印象を受けます。今回は、スタートアップの合従連衡について考えてみたいと思います。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):日本交通ホールディングスとディー・エヌ・エーは2月4日に配車アプリ事業「Japan Taxi」と「MOV」を統合すると発表しました。

ディスクレーマーとして申し上げると、私は元DeNA社員でしたが、この件については内部情報を知っているわけではなく、報道によって外部から得られる以上の情報は知りません。

Japan TaxiとMOVの両者は直接競合関係にあったので、このニュースには非常に驚きました。

朝倉:Japan Taxiはタクシー配車アプリの先行者であり、2011年から配車アプリ事業を行っていましたが(Japan Taxiへの社名変更は2015年)、周囲のプレイヤーのキャッチアップも早かったように思います。

小林:ソニー系みんなのタクシーの「S.RIDE」や、ソフトバンクが支援する中国系の「DiDi」など、さまざまなプレイヤーが市場に参入し、業界内の競争の激しさは増しています。

DeNAは上場会社なので資料が開示されており、その中で業績に関する情報も一部ありました。そこから、オートモーティブ事業でどのくらいの赤字が出ているか、ある程度類推できるのですが、資料から見ると、日本交通ホールディングスの減損損失は20億円を超えています。DeNAも四半期で大きな赤字を自動車部門から出していたのが類推されます。

両者ともに非常に大きなキャッシュバーンをしながら事業を走らせていたようです。オートモーティブ事業は体力が必要な事業だということが伺えます。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):同一業界での統合は、既存事業の経営が難しくなって統合に至るケースが多く、大企業でもよく見られます。

一方で、今回の両社の事業統合は、両社ともに事業基盤が強固になる前に、早い段階で「業界内でこのままパイの取り合いを続けても意味がないのではないか」と考え、統合を決断しています。業界再編例としては日本では新しいスタイルの事例ではないでしょうか。

小林:統合のタイミングとしては、いわゆる救済措置という意味合いではなく、激しい競争環境の中でより優位なポジションに立つためと捉えられます。このようなタイミングでの競合同士の合併は、日本では新しい事例だと思います。

村上:統合によって、ユーザーにとってはタクシーがよりつかまりやすくなるでしょうし、開発コストやマーケティングコストも軽減されるため明確にメリットがあるでしょう。株主に対しても、メリットを訴求しやすい。

一方で、統合後の会社には株主が増えるため、今後の意思決定をどのように行うのかが課題となる気がします。急成長期に船頭が増えると、舵取りが難しい側面もあるため、個人的にはそのような観点から統合後の動きに注目しています。

小林:加えて、会社としてどのようなマネジメントで運営されていくのかという点にも注目しています。

Japan Taxiは日本交通ホールディングスの、MOVはDeNAの一部門であったわけですが、今回の合併により両者ともに38.17%の株主比率となり、統合後は持分法も適用されなくなります。そのため、統合後は独立した会社として運営していくのではないかと予想します。

その点で今後、経営の舵取りはどうなるのか、新体制が経営のフットワークの軽さに繋がるのか、大きな注目ポイントだと思っています。

朝倉:いずれにせよ、ユーザーにとっては、タクシーアプリがこんなに乱立している必要は全くありません。できれば一つに統合して欲しいというのが本音ではないでしょうか。

3つほど配車アプリを連続して使用して、どのアプリが一番先にタクシーが来るのかを見たり、早く来るとわかったら別のアプリをキャンセルしたり、といったような状況は健全ではありませんし、誰にとっても望ましいものではありません。利用者目線では、今回の統合はいい決断だったのではないかと思います。