天才数学者たちの知性の煌めき、絵画や音楽などの背景にある芸術性、AIやビッグデータを支える有用性…。とても美しくて、あまりにも深遠で、ものすごく役に立つ学問である数学の魅力を、身近な話題を導入に、語りかけるような文章、丁寧な説明で解き明かす数学エッセイ『とてつもない数学』が6月4日に発刊された。
教育系YouTuberヨビノリたくみ氏から「色々な角度から『数学の美しさ』を実感できる一冊!!」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。連載のバックナンバーはこちらから。

「素数」は2000年以上も未解明Photo: Adobe Stock

「最も重要な」数とは?

 あなたの誕生日の日付けにはどんな特徴があるだろうか? 仮に7月16日だとすると、「16」は偶数であり、4の倍数であり、2の4乗であり、4の2乗である。では一方の「7」はどうだろう? ラッキーセブンと言うから、なんとなく縁起のいい数のようには感じるものの、目立った特徴はないと思うかもしれない。しかし、7は「1と自分自身以外では割り切れない」という特徴がある。こういう特徴を持つ2以上の整数のことを素数という。

 「6=2×3」のように、素数以外の数は必ず素数の積(掛け合わせた数)で表せる。これを素因数分解といい、素数は文字通り数の素である。素数は英語ではprime numberである。primeは「最も重要な」「最高位の」などの意味を持つことからもわかるように、素数は、あらゆる数の中で最も重要な数だと言っても過言ではないだろう。

 それほど重要な数でありながら、小さい順に素数を探していくと、その表れ方はランダムに見える。

 素数についての研究は2000年以上前の古代ギリシャの時代から始まっており、現在も盛んに研究されているのだが、中でも素数の分布(表れ方)に規則性があるのかどうかについては、多くの数学者が関心を持っている。

100万ドルの懸賞金のかかった証明

 素数の分布に関する法則としては「リーマン予想」と呼ばれるものが有名だ。1859年にドイツの数学者ベルンハルト・リーマン(1826~1866)によって提唱された。その予想の具体的な内容は大変難しいのでここでは割愛するが、もしこれが正しければ、一見ランダムに見える素数のすべてに共通する秩序があることになる。リーマン予想の証明は現在も未解決であり、アメリカのクレイ数学研究所によって100万ドルの懸賞金がかけられている。

 リーマン予想と同じく、これまでに例外は見つかっていないものの、正しいことが証明されていない素数に関する「法則」がある。それは「4以上の偶数はすべて、2つの素数の足し算で表せる」というものだ。確かに、

4=2+2、6=3+3、8=3+5、10=3+7、12=5+7、
14=3+11、16=3+13、18=5+13、……
となる。

 もっと大きな偶数についても同様である。よかったらぜひいろいろな偶数で試してみてほしい。近年では、400京(1京は1兆の10000倍)までの数について、4以上の偶数はすべて素数の和(足し算)で表せることがわかっている。

 これは、18世紀のプロイセン公国(現在のドイツ北東部周辺に存在した国)の数学者クリスティアン・ゴールドバッハ(1690~1764)によって提唱されたので、ゴールドバッハ予想と呼ばれている。しかし今まで、ゴールドバッハの予想が正しいと証明できた者は誰もいない(反対に間違っていることを証明できた者もいない)。

 他にも、11と13のように連続する2つの奇数が素数であるとき、それらを双子素数と言うが、双子素数が無限に存在するかどうかもまだわかっていない。

 素数はすべての数の素であるのに、多くの性質が闇に包まれている。ドイツのレオポルト・クロネッカーは「整数は神が作ったもの」と言ったが、私は素数こそ神が作った数であり、神は宇宙の全知性に対して、素数という数を通して謎掛けを楽しんでいるような気がしてならない。そして、もしかしたらこの広い宇宙のどこかには、人類より先にその謎解きに成功した者がいるかもしれない。そんな想像もまた楽しい。