コロナ,トランプ大統領Photo:Chip Somodevilla/gettyimages

新型コロナウイルスへの対応、香港問題などをめぐり、米中対立は「コロナ以前」よりも深刻さを増している。“新冷戦”ともささやかれる米中の関係は、今後どうなるのか。そして、米中両国とビジネスを行う日本企業は、どう警戒すべきか。笹川平和財団 安全保障研究グループ 渡部恒雄・上席研究員に話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・セレクト編集部 林恭子)

トランプ大統領の
中国批判、WHO批判が止まらない理由

――トランプ大統領は、新型コロナウイルスの感染拡大に対する中国への批判を繰り返しており、米中対立は激化している。この背景には、何があるのか。

渡部恒雄渡部恒雄
笹川平和財団 安全保障研究グループ 上席研究員
1963年福島県生まれ。1988年、東北大学歯学部卒業、歯科医師となるが、社会科学への情熱を捨てきれず米国留学。1995年ニューヨークのニュースクール大学で政治学修士課程修了。同年、ワシントンDCのCSIS(戦略国際問題研究所)に入所。客員研究員、研究員、主任研究員を経て2003年3月より上級研究員として、日本の政党政治、外交安保政策、日米関係およびアジアの安全保障を研究。2005年4月に日本に帰国。以来CSISでは非常勤研究員を務める。三井物産戦略研究所主任研究員を経て、2009年4月から2016年8月まで東京財団政策研究ディレクター兼上席研究員。9月より上席研究員専任となり、10月に笹川平和財団に特任研究員として移籍。2017年10月より現職。

 この問題を考えるにあたっては、まずトランプ政権を「トランプ大統領」「経済チーム」「外交・安保チーム」に分けて捉えなければならない。

 実のところ、トランプ大統領は習近平主席を嫌ってなどいないはずだ。コロナ感染の初期の頃は、中国の取り組みを評価し「習国家主席に感謝したい」と発言していたほどだった。また米財務省や国家経済会議(NEC)は、中国との関係維持は米経済のために必要と考えている。一方、国家安全保障会議(NSC)や米国防総省は、中国を世界秩序に挑戦する「修正主義勢力」と規定して、コロナ感染前から厳しく見ていた。

 アメリカでの新型コロナ感染爆発とトランプ政権の対応に対する批判の高まりが政権内のバランスを変えた。「中国に厳しく行動することがプラスになる」という思惑が「トランプ大統領」「経済チーム」「外交・安保チーム」でも一致した。

 コロナ前まで、11月の大統領選挙と議会選挙のためには景気の維持や、米中で合意した中国からの米農産物の購入などは重要で、米中貿易戦争も一時休戦していた。しかし経済悪化が避けられなくなった今、中国に矛先を向ければ、自身に向けられたコロナ対策失敗の批判をそらすことができる。すでに共和党では、選挙に向けて中国批判を指示するマニュアルができていると報道されている。

 その背景にあるのは、一般のアメリカ人のコロナ感染は中国に責任があるという強い反感だ。トランプ大統領が中国批判をあおっているというよりは、中国へのアメリカ人の不満をうまく利用しようとしているのだろう。

 現在、中国は軍事的にも経済的にも世界No.2の地位にあるが、トランプ大統領も政権スタッフも、共和党も民主党も、アメリカが持つNo.1の地位を明け渡すつもりはない。一方で世界の警察官を引き受けるつもりもない。この内向き意識はコロナで変わるどころか強化されるだろう。コロナ以前から世界では、ナショナリズムやポピュリズムが強まり、アメリカの影響力が低下し世界秩序は混乱しているが、米中対立も含め、この傾向はより加速するだろう。

――トランプ大統領は、WHO(世界保健機関)への批判も強め、恒久的な資金の引き上げを示唆している。アメリカ国内ではどう評価されているか。

 そもそも前提として、アメリカ国内は真っ二つに割れている。アメリカが既存の世界秩序を支えることが国益だと考える現実派と、トランプ大統領のように世界秩序維持の負担を減らすことが、むしろアメリカの利益となると考える「アメリカファースト」の人たちだ。