天才数学者たちの知性の煌めき、絵画や音楽などの背景にある芸術性、AIやビッグデータを支える有用性…。とても美しくて、あまりにも深遠で、ものすごく役に立つ学問である数学の魅力を、身近な話題を導入に、語りかけるような文章、丁寧な説明で解き明かす数学エッセイ『とてつもない数学』が6月4日に発刊された。

教育系YouTuberヨビノリたくみ氏から「色々な角度から『数学の美しさ』を実感できる一冊!!」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。連載のバックナンバーはこちらから。

データマイニングで「有益な情報」を見つけるPhoto: Adobe Stock

データの山から不正使用を掘り起こす

 データマイニングという言葉を聞いたことがある方は多いと思う。「ビッグデータ」と共に、ここ数年で急速に使われるようになった。データマイニングを直訳すると、「データ(data)から潜在的なニーズを掘り出す(mining)」という意味になる。もともとは、Knowledge Discovery in Databases(KDD:データベース内の知識発見)と呼ばれる学術的な研究分野において、1990年代後半から使われ始めた用語である。

 その後、2000年以降のIT革命によってインターネットが普及し、コンピュータの能力が飛躍的に伸びたことで、ビジネスの世界でもいわゆるビッグデータが蓄積されるようになった。これにより、一般社会でも膨大なデータの解析を通して、それまでは明らかになっていなかった有益な情報を引き出すといったニュアンスを含んだ「データマイニング」という言葉が広まった。

 余談だが、big dataという用語は2010年にイギリスのビジネス誌『エコノミスト』で紹介されたのが最初である。またこの頃から膨れ上がったデータの分析を専門に行い、企業や社会に貢献するデータサイエンティストという職業が台頭する。

 世の中にデータマイニングの事例を最初に紹介したのは、1992年の12月23日に発行された『ウォール・ストリート・ジャーナル』の記事だったと言われている。記事は「アメリカの大手スーパーがレジのデータを分析したところ、17~19時の間に紙おむつを買った顧客は、ビールも一緒に買う傾向があることがわかった」と伝えた。

 このことから「子どものいる家庭では、夕方に妻から紙おむつの買い物を頼まれた夫がついでにビールも買って帰るのではないか?」などと考察することができる。また、紙おむつと缶ビールを並べて陳列すれば、さらに売上が上がることも期待できそうである。