酒,ラベル,警告文写真はイメージです Photo:PIXTA

 注意喚起にとどまらず、世界で初めてたばこのパッケージに肺がんの画像付き警告表示を義務づけたのはカナダだった。

 そのカナダ・ビクトリア大学の物質使用障害研究所(CISUR)では、アルコール飲料のボトルに同じような警告文を貼ることで、飲酒量を減らせるか否かの研究を続けている。

 このうち2017年にスタートした介入研究では、カナダ北部のユーコン準州(アルコール飲料は専売制)で流通しているビール、ワイン、ウイスキーなどの蒸留酒のボトルに警告文を記載した赤と黄色のラベルを貼り、効果を検証している。ラベルの大きさは縦5cm×横3.2cmと結構目立つ。

 警告文は(1)アルコールとがんとの関係への言及、(2)カナダ政府が提唱する低リスク飲酒の推奨量の表示、(3)標準サイズのボトルに含まれるエタノール換算量(アルコール度数×内容量)の3種類が用意され、貼付後2~3カ月間の影響を見ている。

 ただし、(1)のがんとの関連に言及したラベルについては、業界団体から「自社製品を中傷している」との猛抗議を受けて、試験開始わずか1カ月で中断されてしまったのだが──。

 がんリスクの警告ラベルを外して再開された研究結果によると、研究期間中の1人当たりのアルコール飲料の売上高は、警告ラベルなし製品で6.91%有意に伸びた。これは予想通りだろう。

 しかしその一方で、警告ラベルありのアルコール飲料の売上高は6.59%減少。最終的に1人あたりの売上高が6.31%有意に減少したのである。興味深いことに研究が終了した後も売り上げの減少が続き、その後の約4カ月間でおよそ1割も低下している。

 研究者は「異なる警告ラベルを時間差で目にしたため、健康リスクに関する意識が高まった」と累積効果を評価している。皮肉なことに、業界団体の圧力でマスコミの注目を集めたことも、市民が関心を寄せる契機になったようだ。

 自粛要請で「宅飲み」の機会が増えたが、魅力的な宅飲みセットの裏には赤と黄色の警告ラベルが隠れていることを覚えておこう。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)