第一印象でなぜか損する、日本人のもったいなさPhoto:Olena Morozova/123R

日本人は、特にビジネスの場では、「丁寧な言葉遣い」や「礼儀正しい振る舞い」で相手への敬意を示し、プライベートで友人たちと過ごすときとは違う顔を見せる。この厳密なまでの「公私の区別」は世界でも珍しく、日本人がビジネス上でオフィシャルな感じを出そうとすればするほど、海外の方からすると理解しづらいものとなってしまう。
米国の大学やハーバード・ビジネス・スクールで学び、総合商社で丁々発止のビジネスを行ってきた経験を踏まえて、現在、日本人の英語力向上とグローバル・リーダーの育成に携わる著者が、最新作『グローバル・モード』から抜粋してそのコツを紹介する。

公私を切り分けるより、「あなたと私」の関係を作る

 もう1つ、ホールが名指しで取り上げている日本のローカル文化の特徴として、非常に強い「公私」の切り分けがあります。それは挨拶の段階からてきめんに表れています。実は、私たちが丁寧に接しているつもりでも、海外の方からすると冷たく感じられてしまうことがよくあるのです。

 日本人は、特にビジネスの場では、「丁寧な言葉遣い」や「礼儀正しい振る舞い」で相手への敬意を示し、プライベートで友人たちと過ごすときとは違う顔、キリッとしたよそ行きの態度で飾ります。公私を切り分けるのが日本人の美徳だからです。ホールの言葉を借りれば、私生活で見せている「温かく、近しく、フレンドリーで濃密」な側面を、公の場で覆い隠しているということです。

 しかし、この厳密なまでの「公私の区別」は世界でも珍しく、日本人がビジネス上でオフィシャルな感じを出そうとすればするほど、海外の方からすると理解しづらいものとなります。グローバルではむしろ逆で、「公」感を消し、できる限り「私」感を出すことで人間関係を作ろうとするからです

「私」感を前面に出したいのは、それによって、相手を単なる仕事相手ではなく、敬愛すべき一個人として扱おうとするからです。「仕事だから、貴方に用がある」のではなく、「あなたという人自体が素晴らしく、仕事を抜いても会えて光栄」という姿勢が相手自身を敬うことになるからです。

 日本人からすると、アメリカ人が会議で足を組むのはお行儀悪いと思ってしまいますが、アメリカ人からしたら、できるだけ相手にリラックスしてもらいたいから、できる限りカジュアルに振る舞い、プライベート感を出そうとしているのです。足を組むことの善し悪しではなく、日本のローカル・モードのまま「公」感を出そうとすればするほど、冷たい印象を与えてしまう可能性があることを覚えておいてください。

 グローバルでも、当然ビジネスであれば、関係はオフィシャルなものですし、その場で個人の電話番号を交換するようなこともしません。ただ、公の用事で会ったとしても、相手を一人の個人としてリスペクトし、胸襟を開いて接する。つまりは、「温かく、近しく、フレンドリーで濃密」な関係を築くことを大切にしているのです。

 だから、私たちが「公」の立場だけを前面に押し出していくと、無味乾燥な人間に思われるかもしれませんし、「大切なのはあくまでビジネス。あなたではない」と受け取られてしまうかもしれないのです。それでは、せっかく相手と良好な関係を築くチャンスが台なしです。

 大げさに聞こえるかもしれませんが、「あなたに会えてとても嬉しい。それで今日ここに来た目的の80%がかなえられたくらい! そういえば、ビジネスの話もしなきゃならないので仕方なくそちらを議題に乗せます……」ぐらいの雰囲気を出すことがグローバルで良好な関係を築くコツです。