運用&家計#9Photo:Adobe Stock

リタイア層の貴重な収入源である年金。公的年金の減額などへの不安も根強い中、今や60歳で仕事を辞めて年金暮らしに入るのはリスクが高い選択肢だ。『収入激減時代の「運用&家計」徹底見直し術』(全9回)の最終回では、就労・公的年金・私的年金をどのように組み合わせて受け取るのが賢い方法なのか、独自の試算結果から明らかにした。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

「週刊ダイヤモンド」2020年5月23日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

今や60歳からの年金暮らしは
かなりリスクの高い選択肢

 年金は定年後世代の貴重な収入源だ。2019年には金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が公表した報告書を発端に、“老後2000万円問題”が話題となったのも記憶に新しい。年金減額などへの不安も根強い中、定年後の生活を年金に頼ってよいのか、多くのビジネスパーソンが気をもんでいる。

 結論から言ってしまえば、人生100年時代が到来している今、60歳ですっぱり仕事を辞めて年金暮らしに入ることはかなりリスクが高い。自分の「長生きリスク」の行方は読めない上、いつ健康を崩して想定外のお金が必要になるとも限らない。そのため、まずはなるべく早いうちから、非課税制度を利用した長期・分散・積み立て投資を行い、公的年金以外の「じぶん年金」を用意しておく必要性がある。

 年金を取り巻く社会的な事情の悪化もある。本特集#5『コロナ時代の家計リストラ術、「固定費」を極限まで削減せよ!』でも解説したように、コロナ禍は将来受け取る年金の額にも影響を及ぼしかねない。勤務先の業績悪化で給料やボーナスのカットが行われ、標準報酬月額(年金被保険者が受け取る税引き前の給与を一定の幅で区分した報酬月額に当てはめたもの)が下がると、将来受け取る年金が目減りすることもあるのだ。

 企業年金や退職金など、企業側が用意する制度も同様に厳しい状況だ。そもそも企業年金を解散する企業も増えている。退職金も20年前と比べると明らかに目減りし、昔なら同期で横並びだった退職金の金額にも、格差が生まれている。“年金格差”はすでに現実だ。

 定年後に対して不安定な要素ばかりが積み重なる時代となった一方で、今年3月には改正高年齢者雇用安定法が国会で可決された。

 これに伴い、21年4月から会社は社員に70歳まで働く機会を確保することが努力義務として課せられた。今後は「70歳まで働く」が当たり前になる時代を視野に入れながら、どのように就労・公的年金・私的年金を組み合わせるかの戦略が重要になる。

公的年金という
最後のカードの切り方に注意

「公的年金は“切り札”。60歳を過ぎれば受給の開始時期を自分でいつでも選べるカードだが、決定後は年金の支払われ方が固定されてしまう。それ故、いつどのようにもらい始めるかは慎重に考えたい」と、ファイナンシャルプランナーの野尻美江子氏は言う。

 公的年金というカードだけでなく、それを補完する複数の手段を持ち、いつそのカードを切るか、それぞれ適切に判断することが求められているのだ。

 では、具体的にどのような組み合わせ方があるのだろうか。