単なる「優秀な部下」にとどまるか、「参謀」として認められるかーー。
これは、ビジネスパーソンのキャリアを大きく分けるポイントです。
では、トップが「参謀」として評価する基準は何なのか?
それを、世界No.1企業であるブリヂストン元CEOの荒川詔四氏にまとめていただいたのが、『参謀の思考法』(ダイヤモンド社)。
ご自身が40代で社長の「参謀役」を務め、アメリカ名門企業「ファイアストン」の買収という一大事業に深く関わったほか、タイ法人、ヨーロッパ法人、そして本社CEOとして参謀を求めた経験を踏まえた、超実践的な「参謀論」です。
本連載では、本書から抜粋しながら、「参謀」として認められ、キャリアを切り開くうえで、欠かすことのできない「考え方」「スタンス」をお伝えしてまいります。

一流のCEOが、「知性のある人にしか<br />“かばん持ち”は務まらない」と断言する理由Photo: Adobe Stock

「カバン持ち」は雑用ではない

「社長直属のスタッフになって、社長の“カバン持ち”なんて雑用をやっているのか。平社員と変わらないな」

 かつて、秘書課長だった頃、口の悪い同僚からこんなふうにからかわれたことがあります。「カバン持ち」とは比喩ではありません。当時、私は、世界中を飛び回っている社長に常時随伴していましたが、実際に、社長のカバンをすべて背負っていましたから、文字通り「カバン持ち」だったのです。

 ただし、私はそれを「雑用」だとは考えていませんでした。
 社長は、「自分で持つ」と言いますが、「いや、ダメです。私が持ちます」となかば強引に「カバン持ち」をしていました。というのは、当時、ブリヂストンはアメリカの超名門企業「ファイアストン」を買収完了した直後で、PMI(経営統合)に向けて社長は日々、世界中に点在するファイアストンの事業所を視察しつつ、多数の重大な意思決定をする必要があったからです。

 ファイアストンの買収金額は約3300億円。それは、当時、日本企業として最高額の外資系企業の買収でしたから、ブリヂストン社内はもとより、そのような巨額買収を経験した人物は国内にいません。すべて自らの頭で考えながら、手探りで一歩ずつ進んでいくほかない状態でした。

 しかも、買収手続きは完了したとは言え、ここからが本当の勝負どころ。ファイアストンの買収とPMI(経営統合)に20年にわたって関わってきた経験から言っても、M&Aは、買収完了までが「2」とすると、そのあとのPMIが「8」。買収時の決断、作業もたいへんなものでしたが、買収後に、それをはるかに上回る、ものすごい量のきわめて困難な課題が次々に出て来るわけです。

一流のCEOが、「知性のある人にしか<br />“かばん持ち”は務まらない」と断言する理由荒川詔四(あらかわ・しょうし)
世界最大のタイヤメーカー株式会社ブリヂストン元代表取締役社長
1944年山形県生まれ。東京外国語大学外国語学部インドシナ語学科卒業後、ブリヂストンタイヤ(のちにブリヂストン)入社。タイ、中近東、中国、ヨーロッパなどでキャリアを積むなど、海外事業に多大な貢献をする。40代で現場の課長職についていたころ、突如、社長直属の秘書課長を拝命。アメリカの国民的企業ファイアストンの買収・経営統合を進める社長の「参謀役」として、その実務を全面的にサポートする。その後、タイ現地法人社長、ヨーロッパ現地法人社長、本社副社長などを経て、同社がフランスのミシュランを抜いて世界トップの地位を奪還した翌年、2006年に本社社長に就任。世界約14万人の従業員を率い、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災などの危機をくぐりぬけ、世界ナンバーワン企業としての基盤を築く。2012年3月に会長就任。2013年3月に相談役に退いた。キリンホールディングス株式会社社外取締役、日本経済新聞社社外監査役などを歴任。著書に『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)がある。