ラグビーワールドカップ2019日本大会の運営に学ぶ、国内メガイベントの今後Photo:iStock

新型コロナウイルスの影響で、延期となっている東京五輪。その判断については多くの賛否の声があがり、国民の関心の高さをうかがわせる。いまだにその開催に関しては、見通しが不透明ではあるが、そもそもこの規模の世界的なスポーツイベントを開催するために、裏側ではどのような組織が、どのような運営を行っているのか、記憶に新しいラグビーワールドカップ2019日本大会を振り返ることで、その一部を垣間見ることができる。


コロナの影響により、直近での大規模イベントの安全な実施に関しては、従来の水準では全く考えられない、新しいスタンダードが必要になるだろう。一方で、ラグビーワールドカップ2019日本大会をはじめとする過去大会からの知見を振り返ることは、新たなスタンダードを考える上でも重要になる。
大会運営にまつわる課題は、多角的にとらえる必要がある。大会への携わり方によっても、それぞれが異なる意見を持つだろう。今回は、ラグビーワールドカップ2019日本大会の裏側の「運営」を担った組織委員会の活動を「組織と人」の観点で振り返り、そこから得られる示唆を考えてみたい。(公益財団法人笹川スポーツ財団 国際担当 武富涼介)

そもそも「組織委員会」とは何なのか、組織の立ち位置

 大会運営にまつわる課題は一つの真因があるようなものではなく、大会への携わり方によっても、おそらくそれぞれが異なる意見を持つはずである。今回は組織委員会の経営企画部という立場から「組織と人」という観点で、ラグビーワールドカップ2019の運営と準備がなぜ難しかったのか、その難しさを乗り越えて、本大会が成功した要因は何だったのか、そして今後に活かせる点はどのようなものかを考察したい。

 ラグビーワールドカップの主催者は各国のラグビー協会を統括する国際競技団体であるワールドラグビーである。彼らはラグビーワールドカップに関するあらゆる権利を持っており、4年に1度の頻度で、世界のどこかでラグビーワールドカップを開催している。ワールドラグビーは大会が開かれる数年前に、立候補してきた各国のラグビー協会の中から開催地を決定して、その後の期間は大会の準備にあてられる。(ちなみに2019年大会の開催地が日本に決定したのは、大会の10年前2009年のことである)

 日本ラグビーフットボール協会(以下、ラグビー協会)は、ラグビー競技の普及、代表チームの強化、トップリーグ運営等、様々な業務を行わなければならず、ラグビーワールドカップの準備に全ての時間を割くわけにはいかないので、ラグビーワールドカップの準備とその運営を専門に行うために新たに立ち上げられたのが、ラグビーワールドカップ2019組織委員会(以下、組織委員会)である。

 当然のことながら実際の大会準備・運営にはラグビー協会との連携が必須であり、加えて主催者であるワールドラグビー、試合会場となるスタジアムを持つ各自治体、大会をスポンサードしてくれるコマーシャルパートナー、大会の様々な業務を受託する委託事業者、さらに大会を支えた1.3万人のボランティアスタッフ等、大会運営を実際に支える組織や人は多岐にわたるが、それぞれのステークホルダーの間で様々な調整を行い、ラグビーワールドカップ2019というプロジェクトを推進していくのが組織委員会である。