店頭からバターが消える異常事態が続いている。国内の小売店の多くが「一日の入荷はせいぜい数個。少量パックで対応しているが、入荷当日中には売り切れる。“お一人様一個まで”の札を常に出している」(大手小売店)という。

 これまで、バターの原料となる生乳の一人当たり消費量は1990年以降、毎年落ち続けていた。これを受け生産者団体は2006年度、07年度連続で減産計画を策定。いっせいに減産した。

 ところが、想定外の事態が起きた。昨年来からの飼料価格の高騰で、経営を維持するためにウシに食べさせる飼料を絞る酪農家が増え、さらに昨年の猛暑でウシが体調を崩して乳量が計画以上に減ったのだ。

 オーストラリアの干ばつなどによる世界的な生乳不足もこれに拍車をかけた。その結果、世界的に需給がタイトになり、生乳と乳製品の価格が高騰。従来は余剰気味だった国内製品に一気に需要が集中したのである。

 ここで影響をもろにかぶったのが、「メーカーからの生乳の買い取り価格が最も安く、消費期限も長いため、需給の調整弁として使われている」という(酪農家団体関係者)バターだった。乳製品の原料用の生乳は、牛乳用のものよりも安い値段でしかメーカーに買い取ってもらえない。店頭での価格競争に対応するため、加工コストを含んだ原価を抑えなければならないからだ。

 生乳の最大産地である北海道では、それでも3月には約3%ほど乳量生産が増加しているものの、小売店での品不足はいっこうに解消されない。

 「大手製パンや菓子メーカーが、輸入品の価格高騰や国産品の品薄状況を見越して買い占めているのでは」(業界関係者)と見る向きもある。

 「一円でも高く生乳を売らなければ経営が成り立たない」(酪農家)までに疲弊した生産者。さらに、原材料の需給状況を無視して店頭で安売りされる商品。飼料高騰という国際的な要因で起こった異変に対し、確たる防衛策や対策を持たない生産者やメーカー、そして国――。

 5月に入り、農水省はついに乳業大手にバター増産を要請。各社ともこれに応じる意向だが、関係者の不安は消えない。今回のバター騒動は、日本の食料供給構造の脆さをあらためて浮き彫りにしたとも言える。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 鈴木洋子)