日本が世界の国々に先駆けて本格的な人口減少の局面に入ってすでに7年が経つ。近代以降、かつてないほどの変化を迎え、日本社会のパラダイムがあらゆる分野で変わろうとしている。「働き方」もまた変化を余儀なくされている領域の一つとされるが、企業の雇用制度やビジネスモデルの変化は鈍いと言わざるをえない。

 豊かな働き方を実現するために、政策任せにすることなく、ビジネスとして変えていくにはどうしたらいいのか。世界60以上の国と地域で事業を展開する世界最大の人材サービス企業アデコグループの日本法人トップを務める川崎健一郎が「新しい働き方」をビジネスの力で実現する方法を探る。

世界はなぜ日本の働き方改革に
注目するのか

社会の多様性を「働き方の多様性」に結びつけるために
アデコ 代表取締役社長
川崎 健一郎
 KENICHIRO KAWASAKI
1976年、東京都生まれ。青山学院大学理工学部を卒業後、ベンチャーセーフネット(現・VSN)に入社。2003年、事業部長としてIT事業部を立ち上げる。常務取締役、専務取締役を経て、2010年3月、VSNの代表取締役社長&CEOに就任。2012年、同社がアデコグループに入り、日本法人の取締役に就任。2014年には現職に就任。VSN代表取締役社長&CEOを兼任している。

「日本の人材サービス市場の予測を出して欲しい」

 私が日本法人の社長を務める人材サービス企業アデコグループのスイス本社にいる経営陣から、最近こうした問いが頻繁に投げかけられるようになりました。日本の人材サービス市場は米国に次ぎ、世界で2番目に大きな市場ですので、本社がその市場の動向に注目することは、何ら不思議ではありません。

 しかし、ヨーロッパに拠点を置いてビジネスを展開している彼らの問いかけは、日本の労働市場が直面している問題が、近い将来、必ずやヨーロッパの先進国にも降りかかってくる問題だという認識によるものです。

 私たちは今、大きな時代の転換点に立っています。日本で進んでいる最も大きな変化、それは、ご存知の通り少子化と高齢化です。生まれてくる子どもの数は減り、一方で、平均寿命は伸び続けています。こと経済という視点で見た場合、最大の問題は生産年齢人口、つまり10代後半から60代までの「働く人たち」が今後間違いなく減少していくということです。

 そのもっとも分かりやすい対策は少子化の歯止めということになりますが、その成功例として取り上げられるフランスも、普仏戦争の大敗を機に対策を始めたのが今から100年以上前。その間、出生率は上下動を繰り返しながら、近年の上昇トレンドに入っている状況です。日本での施策のすべてが奏功し、出生率が上向きになったとしても、その効果が表れる頃には、今の水準の社会保障を保つことは難しい状況になっているでしょう。

 こうした状況を打開するためには、「働く」ことのあり方を根本から捉え直さなければなりません。人口構成を調整することが間に合わないのであれば、「働きたいけど働けない人」を「新しい働き方」によって所得を生み出す人に変える。そして、その新しい働き方をコストではなく、ビジネスとして創り出していかなければならない──。人材サービス会社を経営する者として、私はそう考えています。いや、経営者というよりも、日本人として、私はこの未曽有の変化に本気で向かい合っていかなければならないと考えています。

「在宅勤務」の誤解

 働きたいけど働けない人を、働けるようにする。働き方の変化によってこれを実現するためには属性とスタイルの両面から考えていく必要があります。

 まずは、働き手の属性を多様化することです。現在、硬直化した雇用システムによって働けないでいる「女性」「シニア」「外国人」「障がい者」といった人々を、制度、文化、環境面で働く条件を整えることで、働けるようにすること。これによって働き手の「数」の減少を食い止める、または遅らせることができます。

 一方、働き方のスタイルを多様化していくことも重要です。在宅勤務を例に考えてみましょう。最近、日本でも在宅勤務の制度を導入する大企業が増えています。週に2日でも3日でも在宅で仕事をすることができれば、子育てや介護のために休職もしくは離職しなければならなかった人が働き続けることが可能になります。

 この「在宅」という呼び名では限定的ですので、私は働く場所を限定しない「オフィス外勤務」と呼びたいと思います。子育てや介護をしなければならない人であれば在宅である必然性がありますが、そうでなければ、例えば、喫茶店で仕事をしてもいいし、図書館で仕事をしてもいい。場合によっては、浜辺に座って海を見ながら仕事をしてもいい。要するに、その人が最も快適な場所や方法で仕事をすればいいのです。オフィスに縛りつけることで、人間関係などに悩んで会社を辞めてしまう人がいるのであれば、そのような自由な働き方を認めることによって、会社を辞めずに済むはずですし、仕事の効率も上がるはずです。