日本の半導体企業の苦境が続いている。エルピーダメモリの会社更生法申請につづき、ルネサス エレクトロニクスは1万人超の人員削減を発表した。その凋落の原因については、すでに学会やジャーナリストなど各方面から分析がなされているが、今回は、40年にわたり半導体研究・開発に携わってきた、産業サイドの第一人者とも言える菊地正典氏の分析と提言を紹介する。

 日本の半導体メーカーに「内在する凋落の原因」として、次のような点を挙げることができるでしょう。

〈1〉コスト戦略──積み上げ原価方式で戦う愚かさ

 我が国の半導体メーカーでは、経営層から管理層さらには担当者に到るまでコスト意識が希薄だったこと。はっきりいえば、企業体としてのコスト戦略が皆無だったということです。
  企業トップは、積み上げ形式でのコスト決定ではなく、
「コストを○○円で収めるために、各部署は何をすべきか考えなさい」
という形で指示を出すべきでしたが、実際にはそうではありませんでした。

 このような意味でのコスト戦略の不在は、我が国の大手半導体メーカーが東芝を除いて旧電電ファミリー(NEC、日立、富士通、沖)と呼ばれる総合電機メーカーの一事業部門としてスタートしたことにも、原因があると考えます。

 電電公社(現在のNTT)に製品を納入するに当たっては、「積み上げ原価方式」、すなわち実際にかかった費用に「適切な利潤」を上乗せした値段で売ることができました。現在、何かと問題になっている東京電力方式といえばわかりやすいでしょう。

 しかし半導体、特にメモリのように差別化ができなくなりメーカーが乱立するような場合は、完全な買手市場で「価格勝負」になります。たとえば、DRAMを供給できるメーカーが世界に5社あるとすると、上位2社では利益があがり、残りのメーカーは赤字になるのが実態です。したがって、メモリメーカーにとっては、上位グループに入るか下位グループに甘んじるかは死活問題であり、シビアなコスト戦略のなかった日本メーカーは戦いの場から退くしかなかったのです。