誰もがすぐに真似できる「伝え方の技術」をまとめた、佐々木圭一氏のベストセラー『伝え方が9割』。2013年の発売以来、右肩上がりで売れ続け、後に発売された、『伝え方が9割②』『まんがでわかる伝え方が9割』『まんがでわかる伝え方が9割 強いコトバ』と併せてシリーズ143万部を突破しています。そしてこのほど、『伝え方が9割』単独で100万部突破を成し遂げました。『伝え方が9割』はなぜこんなに売れ続けているのか、著者の佐々木氏に編集担当の土江がインタビュー。話は2人の出会いや制作秘話まで遡りました。(構成・伊藤理子 撮影・小原孝博)

『伝え方が9割』の魅力は再現性の高さ

『伝え方が9割』はなぜ100万部売れたのか

──とうとう『伝え方が9割』、単独で100万部を突破しましたね。初版が2013年3月ですから、丸7年ですね。

佐々木 ありがとうございます!本当に嬉しいです。

――7年間ずっと売れ続けている理由について、佐々木さんはどう見ていらっしゃいますか?

佐々木 読者の方によく言われるのは、再現性の高さですね。90分ぐらいでざっと読める本なんですけれど、読み終わったら即、日常生活の中で「伝え方の技術」を活用できる。例えば、営業の人だったらクライアントとのトークですぐ使えますし、学生だったら友達にLINEを送るときに取り入れられる…「すぐに再現できるのがすごい」と言っていただけることが多いですね。

――佐々木さんはもともと、伝えるのが苦手ですごく悩んだ経験があるから、即効性のある「伝え方の技術」を発見できたんですよね。

佐々木 そうですね。伝えるのがほんと苦手でした。広告代理店のコピーライター時代は、1日にコピーを300本、400本書いてもまったく採用されなくて、思い悩む日々が続きました。先が見えない中でも、とにかく目の前の仕事に愚直に向き合い続けていたとき、偶然に「伝え方の技術」を発見したんです。

この話は『伝え方が9割』の前書きにも入れたので、もしかしたら読者の方々は、「もともと伝え方が下手だった人ができるようになったのであれば、その技術、自分にも使えるかも?」と思ってくれたのかもしれませんね。

――僕が佐々木さんに初めてお会いした時には、もう佐々木さんは「できる人」で、伝え方がすごくうまくて、そんな過去があるなんて思いもしませんでした。

佐々木 当時の僕は、上智大学で社会人に向けて「伝え方」の講義をしていて、それを土江さんが見に来てくださったんですよね。そして「これを本にしましょう」と。

――佐々木さんなりの方法論がもう完成されていたので、その講義自体が『伝え方が9割』の本の原型になっていますね。

佐々木 本が出たとき、僕は40歳だったんです。当時はまだ広告代理店に勤めていて、「きっともうずっと、ここにいるんだろうな」と思っていました。本当は昔から、いつかは独立して仕事をしたいという夢があったのですが、もう40だし、僕の人生ではもう無理なんだろうなと。

でも、40歳で本を出すことができて、「これが最後のチャンスかもしれない」と奮起できたんです。だから出版のタイミングで「これ、どれぐらい売れますかね?」って土江さんに聞いたんですよね。すると「3万部ぐらいは行くかもしれませんね」っておっしゃって。

――え、全然覚えていないです…(笑)。

佐々木 土江さんが3万部売れるって言うから、「じゃあぼく、独立していいですか?」って畳み込むように聞いたんですよ。すると「ちょっと待ってください…本が売れてからにしましょう」って(笑)。そこで少し考え直して、目標を少し引き上げて「5万部売れたら独立しよう」と決めました。5万部売れる本はなかなかないと伺っていたので。

――なかなかないです。

佐々木 だから、制作途中はすごく興奮状態にありました。もう後には引けない、すべてをこの本に賭ける!という意気込みでしたから。でも、出版直前になってマリッジブルーじゃないですけれど、「本当に出版していいのかな」と不安になってきたんです。今の自分が持っている技術を、全部ここに吐き出してしまったから。

――コピーライターとしての手の内を、すべて明かしたわけですからね。

佐々木 同業のコピーライターにも全部ばれてしまいますし、しかも「誰でもできる」という形で本にしたから、僕がいなくても「いい言葉」が作れてしまうことになる。それを考えたら急にブルーになってしまって、「この本、売れなければいいな」なんて思ったこともありました。売れちゃったら、僕がこの世の中で必要とされなくなる、存在価値がなくなってしまう…とまで考えていました。