「ひふみ投信」を運用しているレオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役会長兼社長CIOの藤野英人氏と、「農林中金<パートナーズ>長期厳選投資おおぶね」を運用している農林中金バリューインベストメンツ株式会社常務取締役CIOの奥野一成氏。
外国株式運用を行っている2人のファンドマネージャーは、どういう視点で企業を選び、どういうスタンスで投資をしているのか。コロナ禍の株価急落時にどのような対応をしたのか。後編では長期投資ファンドを運用する2人の投資哲学を伺いました。(構成/鈴木雅光)

コロナ危機でファンドマネージャーはどう動いたのか<br />藤野英人×奥野一成「教養としての投資」対談(後編)

株価が下げにくい企業に投資する

奥野 私どもは投資先を選ぶにあたって、目先の業績よりも参入障壁にこだわっているのですが、藤野さんは企業のどこに注目しますか。

藤野 成長率を重視しています。もっと詳しく申し上げると、成長率のスタビリティといいますか、その成長率をどれだけ安定的に出し続けられるのかということの確信が得られるかどうかを重視しています。では、何によって確信を得るのか、ですが、これはその会社が持っているさまざまな要素が反映されます。単純に良いプロダクトを持っているとか、製品・サービスが売れ続けているということではなく、その会社が持っている企業文化や、お客様との関係性、あるいは奥野さんがおっしゃられる参入障壁や経営者のビジョンなども重要だと思います。

奥野 参入障壁について私の考えをもう少しお話しますと、参入障壁はニュートンの万有引力の法則のように、何もせずに放っておくと必ず崩れます。崩れそうになる参入障壁をいかにして再び活性化させるかが、強固な参入障壁を築いていくうえで重要になってくると思うのです。そして強固な参入障壁を構築するためには、必要に応じた投資を実行していくための経営判断力が問われます。たとえば自分の会社の参入障壁を維持するために、競合関係にある会社を買収するというのは典型的なケースです。M&Aは立派な投資ですし、その他に研究開発投資や設備投資、人材投資などさまざまな投資があって、それらを駆使することで、より高い参入障壁を築き上げた企業が投資するに相応しいと考えます。

藤野 レオスでは今、海外の成長企業に投資する「ひふみワールド」だけでなく、かつて日本株運用をメインにしていた「ひふみ投信」でも一部、世界株に投資しており、ひふみ投信に世界株を組み入れる時は、日本にないビジネスモデルを持った企業に投資するようにしています。

奥野 ひふみ投信といえば、コロナショックで株価が急落する前に、結構キャッシュポジションを高めて話題になりましたよね。マザーファンドの現金比率を見ると、2020年1月末で0.7%だったのが2月末には31.2%ですから、かなり大胆な運用だし、私にはなかなか出来ない判断なので注目したのですが、なぜあのような判断を下したのですか。

藤野 ひとつは勘です。ゲゲゲの鬼太郎でいう、“妖怪アンテナ”が立ちました(笑)。それと当時、米国の株価水準が高いのに加えて、徐々に広まりつつあった新型コロナウイルスをマーケットが織り込んでいないと思ったのです。2月半ばにかけて米国株はNYダウやS&P500、ナスダックなど軒並み史上最高値を更新していて、PBRも近年まれに見る水準にまで上昇していました。また新型コロナウイルスについては当初、「アジアで罹る奇妙な風土病」と解釈されていましたよね。そのため米国の株式市場では、新型コロナウイルスのマイナス影響を過小評価していたのが明らかでした。現状、株価が割高なので、ここから上がるにしても10%から15%程度。半面、新型コロナウイルスを株価が織り込んでいないとしたら目先で20%、30%を超えて下がる。この2つを天秤にかけると、ダウンサイドの期待値が非常に高い。だとしたら、「現金比率を高めておくのが得策だ」と判断したのです。奥野さんは、あの株価急落にどう対応したのですか。

奥野 私たちはそのようなポジションの取り方をしないのです。というのは、もともと私たちが投資している企業って、マーケット全体が下げる時にも下げない、下げにくい会社を選んでいるつもりだからです。それに、私たちのファンドを保有している投資家の皆さんは、マーケットが急落したからといって解約に走らない投資家ばかりです。最近は個人の方々にも購入していただけるようにしていますが、基本的に積立投資とイデコ経由なので全解約が生じにくいですし、それ以外の運用資金は長期投資を前提にした機関投資家のものですから、急な解約に対応する必要がありません。そうである以上、株価が下げる前に現金比率を高める必要はないというのが、私の判断です。そもそも私は短期的な株価の上げ下げを予測して、当て続けることは不可能だと思っています。仮に首尾よく株価が下がる前に売却することができたとしても、今度は上がる前に買わなければいけません。そうやってタイミングを取り続けるのは、少なくとも私には無理だと思っています。そして、そうしている間にも私たちが投資している企業は、参入障壁を高める努力をし、着実に企業価値を増大させているのです。それが分かっているので、売買では勝負しないようにしています。

コロナ危機でファンドマネージャーはどう動いたのか<br />藤野英人×奥野一成「教養としての投資」対談(後編)
藤野英人(ふじの・ひでと)
1966年富山県生まれ。投資家、ファンドマネージャー。レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役会長兼社長・最高投資責任者(CIO)。早稲田大学法学部卒。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス株式会社を創業。主に日本の成長企業に投資する株式投資信託「ひふみ投信」シリーズを運用。一般社団法人投資信託協会理事。投資教育にも注力しており、JPXアカデミー・フェロー、明治大学商学部兼任講師も務める。主な著書に『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)、『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『ゲコノミクス』(日本経済新聞出版)などがある。