無意識のうちに飛ばしているロジックはないかPhoto:rudall30/123RF

第32回の接続詞の使い方でも見たように、日本語を英語に置き換えると文章が長くなりがちだというほかに、実は、我々の文化の中ではあえて語らなくて済んでいた部分もきちんと説明する必要があるからこそ、話が長くなってしまうという面もある。
米国の大学やハーバード・ビジネス・スクールで学び、総合商社で丁々発止のビジネスを行ってきた経験を踏まえて、現在、日本人の英語力向上とグローバル・リーダーの育成に携わる著者が、最新作『グローバル・モード』から抜粋してそのコツを紹介する。

日本語を英語にすると、尺が長くなる

 総合商社に勤めていた頃、日本企業の方々をお連れして世界を飛び回っていました。仕事の一部は、通訳です。

 そこで必ずといっていいほど起きるのは、日本語を英語に訳すと、「尺が長くなる」ということです。数秒の日本語が、例えば1分になるのです。

 ある日本企業のエンジニアとともに、技術を伝授する目的でA国の工場を訪れたときのこと。ふと見ると、A国の工員が作った製品を入れた箱を足でぐっと動かしました。特に他意はなく、単純に重かったのでしょう。

 ただ、それを見た日本人エンジニアが言いました。「足げにしてるようじゃねぇ。そう伝えてもらえますか」。作った製品を足で扱うとは何事か、そんな根性ではいいものなんか作れるわけがない、ということなのでしょう。

 この3秒に満たないコメントを訳すとなると、こうなります。

「日本では、大事なものは、手で丁寧に扱うという考え方があります。足で蹴るものは汚いものや見下しているもの。ましてや、魂まで込めて作ったものには誇りがあり、それを蹴るなんてことはしませんし、できません。日本人にとって足げにするのは、自分の仕事に唾を吐いていることになるんです。

 あなたはさっき、自分が作ったものを蹴りました。日本人からすると、自分の仕事に誇りを持っていない、一生懸命作っていないように映ってしまいます。ですが、あなたが一生懸命作ろうとしていることは知っています。だから、戸惑っているんです」

 まさにこの「尺の違い」が、私たちが高文脈の世界で無意識のうちにすっ飛ばしているロジックなのです。

 文脈の違いを乗り越えるには、日本人同士ではあえて言わない部分を、きちんと言葉にしていくことが不可欠です。

無意識のうちに飛ばしているロジックはないか
児玉教仁(こだま・のりひと)
イングリッシュブートキャンプ株式会社代表
ハーバード経営大学院 ジャパン・アドバイザリー・ボードメンバー
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー アドバイザー
静岡県出身。静岡県立清水東高等学校を卒業後、1年半アルバイトで学費を稼ぎ渡米。ウィリアム・アンド・メアリー大学を経済学・政治学のダブル専攻で卒業後は、シアトルでヘリコプターの免許を取得後帰国。1997年4月三菱商事株式会社入社。鉄鋼輸出部門に配属され様々な海外プロジェクトに携わる。2004年より、ハーバード経営大学院に留学。2006年同校よりMBA(経営学修士)を取得。三菱商事に帰任後は、米国に拠点を持つ子会社を立ち上げ代表取締役として経営。2011年同社を退社後、グローバル・リーダーの育成を担うグローバル・アストロラインズ社を立ち上げる。2012年よりイングリッシュブートキャンプを主宰。イングリッシュブートキャンプ社代表も務めるかたわら、大手総合商社各社をはじめ、全日本空輸、ダイキン等、様々な国際企業でグローバル・リーダー育成の講師としてプログラムの開発・自らも登壇している。