ネットいじめ,PTSD写真はイメージです Photo:PIXTA

 インターネット上の誹謗中傷の規制強化を巡り議論が続いているが、「ネットいじめ」についても考える必要がある。

 英インペリアル・カレッジ・ロンドン精神科の研究チームはロンドン市内の中等教育学校4校に通学する11~19歳の生徒、2218人を対象に「ネットいじめ」と従来の「いじめ(対面)」の関係および、その後のPTSD(心的外傷後ストレス障害)──いわゆるトラウマとの関連を調べている。

 対象者のうち、いじめた(加害)/いじめられた(被害)という経験がある生徒は46%(ネット25%、対面34%)で、17%が被害者、12%が加害者、そして4%が両方の立場を経験している。

 ネットいじめの被害者のうち、52.2%が対面のいじめを受けている一方、実生活では逆に加害者であるケースが8.5%を占めた。また実生活で加害者側の48%はネット上でも加害者であり、仮想空間で立場が逆転するケースは7%だった。

 注目されるのは、ネットで加害者として立ち回っている生徒の38%、およそ4割が、実生活では「加害/被害として、いじめを経験したことはない」としている点だ。研究者は「ネット上の加害者の3人に1人以上が“いじめ”の経験がない。一方で被害者の多くは、ネットでも対面でも被害者であり続ける」と指摘し、匿名性が新たな『いじめ空間』をつくり出していると警鐘を鳴らしている。

 さらに1516人に対してPTSDの症状の有無を評価した結果、被害者の35%、被害/加害の両方を経験している生徒の28.6%がPTSDを発症していた。

 また、被害者の生徒より重症度は低いが、加害者の29.2%にもPTSD症状――「本人の意思に反してトラウマのきっかけになった出来事や記憶がよみがえる(侵入思考)」や「トラウマを刺激する出来事や場所、人物を避ける(回避症状)」を認めている。

 ネット上の中傷行為は匿名性の陰で手に負えない事態を生み、加害/被害の別なく当事者に深い傷を残す。「わが子に限って」と願う気持ちは脇にして、日々見守り続ける必要がありそうだ。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)