辞任を表明した安倍晋三首相が推進したアベノミクス。日本経済に何をもたらしたのか。著名なエコノミストに評価してもらった。ソシエテジェネラル証券チーフエコノミストの会田卓司氏は、70点と高い評価をする。名目GDPを拡大させ、デフレではない状況をもたらした点がプラス材料。マイナスは、消費税率引き上げや社会保険料引き上げで財政を緊縮気味にしたことだ。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)

財政拡大が不十分なため金融緩和の
副作用が議論されるまでになった

会田卓司Photo by Kazutoshi Sumitomo

――7年8カ月にわたるアベノミクスの評価は。

 名目GDPを膨らませることに成功して、消費者物価や賃金も緩やかながら上昇した。日本をデフレではない姿に変えたという点を評価している。

――アベノミクスに点数をつけるとすると。

 70点だ。

――減点要因は。

 財政赤字が続いていたので財政拡張をしているように見えたが、企業と政府を合わせたネットの資金需要という観点からは緊縮方向にあったという点だ。2011年から12年は、東日本大震災からの復興のために財政が拡大されて、ネットの資金需要はプラスになった。

 13年以降、復興需要は逓減していったが、13年はアベノミクスの第二の矢、機動的な財政政策でネットの資金需要は維持された。しかし、14年4月の消費税率引き上げや社会保険料引き上げなどで財政緊縮となり、ネットの資金需要はマイナスになってしまった。

 そこで、財政政策の効果が弱い中、金融政策だけでもっと緩和しろという話になり、金融緩和継続の副作用が議論されるまでになった。

 そもそも、企業の投資と政府の投資、両者を合計したネットの資金需要がマイナスのままの状態が続き、経済が膨らむ力が生まれないのが、これまでの日本の大きな問題だった。経済を膨らませるリフレサイクルが上向いていなかった。

――ネットの資金需要がないところで、日本銀行は無駄に金融緩和を進めたということですか。

 そういう面はある。黒田東彦日銀総裁が当初から金融政策と財政政策を合わせてポリシーミックスが重要であることを意識した姿勢をとっていればよかった。バーナンキ元FRB(米連邦準備制度理事会)議長のように財政支出が急減する、いわゆる財政の崖の危険性を指摘していてくれればよかった。