ドーナツ「ドーナツを穴だけ残して食べる」という問いに向き合うことは、学問の力の見せどころではないだろうか(写真はイメージです) Photo:PIXTA

レビュー

「ドーナツを穴だけ残して食べるには?」と問われたら、どう答えるだろうか。ドーナツを食べてしまったら穴どころか何も残らないし、穴だけ残して食べるなんて不可能だ。こんな問いは馬鹿げている、といった反応をするのではないだろうか。

『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』書影『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』 大阪大学ショセキカプロジェクト編 日経BP 日経ビジネス人文庫刊 990円+税

 しかし、ここで常識を疑い、学問の知見のもとに「本当にそうだろうか?」と突き詰めてみるとどうか。学問の醍醐味は、誰もが当たり前だと考えてきたことを覆していく点にある。そう考えると「ドーナツを穴だけ残して食べる」という問いに向き合うことは、学問の力の見せどころではないだろうか。

 この問題に本書『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』で取り組んだ研究者たちの分野は、工学、美学、数学、歴史学、人類学など実に多彩だ。彼らの向き合い方にも度肝を抜かされる。「そもそもドーナツに穴なんてあるのだろうか」「ドーナツは近代国家そのものなんじゃないか」。そんなことを言い出すのだ。それは決して奇をてらったわけではなく、自らの知見を「ドーナツの穴」に注ぎ込んだ結果である。

 実はこの問いは、インターネット上の談義では1つの定番ネタである。情報が淘汰と進化を繰り返すインターネット上で、この話題が生き残っているというのは、議論することで新たな価値観が見出されていることの表れといえよう。そんな「ネタ」に、学問の立場から本気で取り組んだら、どんな世界が見えるのか。ユニークな知的格闘の記録から、常識にとらわれない発想や思考のエッセンスを学んでみてはいかがだろうか。(ヨコヤマノボル)