賢人100人に聞く!日本の未来#42

新型コロナウイルスの世界的大流行を受けて、今年7月に『コロナ後の世界を生きる』を上梓した、東京大学・国際基督教大学名誉教授の村上陽一郎氏。特集『賢人100人に聞く!日本の未来』(全55回)の#42では、村上氏にコロナ禍で巻き起こった数々の“批判”から学ぶべきことを聞いた。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)

非常事態における為政者の政策
直面するジレンマと巻き起こる批判

――1983年に『ペスト大流行』を書かれてから40年近くがたった今年7月、『コロナ後の世界を生きる』(岩波新書)を上梓されました。

 私は必ずしも感染症の専門家ではありませんが、父親が医者であったことから、高校生の頃までは医者を目指していました。ですが、病気のために医学部受験を諦めねばなりませんでした。ただ、医療に助けられた経験から医療に関心を持ち、情報発信を続けてきました。そこで今回、各界の著名な23人の論者に書いてもらったものを私が編者としてまとめることになりました。

 特徴的だったのが、為政者に対する批判が多かったことです。ただ私自身は、政府に何ができるのかということに対して、また政府をどこまで批判できるのかについて、やや留保する部分がありました。

 というのも、ベトナムや韓国などを代表とするアジア各国は、今回の新型コロナウイルス感染症の前にSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)の被害を受けたため、政策レベルで何をなすべきかという経験がすでにありました。ですが、日本はほぼ無風だったため、今回が初めての経験といえます。

――確かに、政府の対応について批判が多かったという印象です。

 まず、安倍晋三首相(当時)が学校の休校を要請しましたが、早過ぎると批判がありました。その後の緊急事態宣言については遅過ぎるといった批判や人権侵害である、主権を脅かしている、といった声が上がりました。こうしたことを言わねば知識人ではない、との風潮があったように見受けられます。

 今回のように状況が判然としない非常事態が発生し、何かをしなければならない状況において為政者はジレンマに直面することになります。