20万部のベストセラー『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』のシリーズ最新作『50円のコスト削減と100円の値上げでは、どちらが儲かるか?』(共に林總著)が10月5日に発売されます。その刊行を記念して『餃子屋と高級フレンチでは~』の第3章までを特別公開。主人公由紀の奮闘ストーリーをとおして、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の勘所が押さえられる。第1回はプロローグの全文をご紹介致します。本連載は毎週水曜日更新予定です。


「え、私が社長に!?……」

 由紀はとまどった。株主総会で新社長に選任されてしまったのだ。

 大学卒業と同時に、父、矢吹源蔵が経営するアパレル会社「ハンナ」に入社して5年。この間、デザイナーの仕事に明け暮れてきた。

 由紀はこの仕事を天職だと思っていた。年に数回パリとミラノに出かけ、ファッションショーや展示会、そして有名ブランドショップを見て回る。世界と日本の流行を敏感に感じ取ってオリジナルのデザイン画にするのだ。

 自分が手がけた洋服がヒットしたときの快感は、言葉では言い表せない。由紀はこの仕事をずっと続けるつもりだった。

 ところが、楽しいことは続かなかった――。父親が急逝したのだ。ゴルフの最中に倒れ、病院に運ばれた時、心臓はすでに停止していた。

 さっそく臨時株主総会が開かれた。当初、後任の社長には未亡人の里美が就任するのではないかと噂されていた。

 ところが、大方の予想に反して由紀が選出された。心臓の持病を抱えていた源蔵は、愛娘に会社のすべてを相続させる旨の遺書を残していた。遺書の最後には、こう記されていた。

「誰も、私の意志に逆らってはならない」

 源蔵の遺言通り、由紀は年商100億円の「ハンナ」を相続し、代表取締役社長に就任した。

 しかし、由紀にとってこれほど迷惑な話はなかった。「私に社長が務まるはずがない」と心底思った。この会社に就職した理由は、好きな洋服のデザインをしたかったからだ。由紀は父親を憎んだ。