世界的に有名な企業家や研究者を数多く輩出している米国・カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院。同校の准教授として活躍する経済学者・鎌田雄一郎氏の新刊『16歳からのはじめてのゲーム理論』(ダイヤモンド社)が発売され、たちまち重版となり累計2万部を突破した。本書は、鎌田氏の専門である「ゲーム理論」のエッセンスが、数式を使わずに、ネズミの親子の物語形式で進むストーリーで理解できる画期的な一冊だ。
ゲーム理論は、社会で人や組織がどのような意思決定をするかを予測する理論で、ビジネスの戦略決定や政治の分析など多分野で応用される。最先端の研究では高度な数式が利用されるゲーム理論は、得てして「難解だ」というイメージを持たれがちだ。しかしそのエッセンスは、多くのビジネスパーソンにも役に立つものである。ゲーム理論のエッセンスが初心者にも理解できるような本が作れないだろうか? そんな問いから、『16歳からのはじめてのゲーム理論』が生まれた。
各紙(日経、毎日、朝日)で書評が相次ぎ、竹内薫氏(サイエンス作家)「すごい本だ! 数式を全く使わずにゲーム理論の本質をお話に昇華させている」、大竹文雄氏(大阪大学教授)「この本は、物語を通じて人の気持ちを理解する国語力と論理的に考える数学力を高めてくれる」、神取道宏氏(東京大学教授)「若き天才が先端的な研究成果を分かりやすく紹介した全く新しいスタイルの入門書!」、松井彰彦氏(東京大学教授)「あの人の気持ちをもっとわかりたい。そんなあなたへの贈りもの。」と絶賛されている。2020年のノーベル経済学賞が「ゲーム理論」の研究成果に贈られたことを記念して、著者が「ダイヤモンド・オンライン」に緊急寄稿した。大好評連載のバックナンバーはこちらから。

【2020年ノーベル経済学賞】ミルグロムとウィルソンの「オークション理論」は、ここがすごい<br />Photo: Adobe Stock

ノーベル経済学賞と「オークション理論」

 2020年のノーベル経済学賞は、ポール・ミルグロム氏とロバート・ウィルソン氏に授与された。「オークション理論の発展と新しいオークション形式の発明に」というのが受賞理由だ。ミルグロム氏とウィルソン氏がオークションを分析するのに使ったのは、ゲーム理論だ。

 彼らの「オークション理論」への貢献は多大で、ここには書ききれない。そこで、彼らの研究のうち、ゲーム理論の考え方が如実に現れている一つの貢献を紹介しよう。

 これは、受賞理由でいうと「オークション理論の発展」の方の(一部分の)解説ということになる。ちなみにもう一方の「新しいオークション形式の発明」は、複数の商品を同時に売る際におけるオークション方法で受賞者らが発明したものを指している。実際には、たとえば電波の様々な周波数帯を同時に売るときに使われている方法である。この話も、単一の商品を売るオークションにはない複雑性があり面白いのだが、スペースの関係上、詳細は他の識者の解説に委ねることとしよう。

 さて、オークションは、様々な場面で使われる。グーグルで広告を打とうと思ったらその広告スポットはオークションで勝ち取らなければいけない。eBayで商品を買うのもオークションだ。アメリカで家を買うときも、オークションで購入者が決まる。

 これらの状況に共通しているのは、売られているモノの供給量に比べ、需要量が多いということだ。広告スポットの数よりも広告を出したい企業は多いし、商品の数(1つ)よりも買いたい客の数の方が多い。1つの家につき、買いたいというオファーは大概複数届く。

 こんなとき売り手としては、ぜひとも、商品を高く評価している客に、高い値段で売りたいと考える。しかし問題は、どの買い手がその商品を高く評価しているかが分からないということだ。そこでオークションが用いられる。「商品を高く評価しているなら、高い買い値を入札してくれ」というわけだ。

 しかし買い手にとってこの問題は複雑だ。まず、買い手としてはできるだけ安く商品を買いたいだろう。だから商品にたとえば1万ドルの価値を見出しているからといって、1万ドルを入札するのが最適とは限らない。オークションのルールによっては、できるだけ安く入札したほうが良いということもあろう。ではどれくらい安く入札したら良いかというと、それは他の入札者の行動に依存する。

 オークションでは、入札者はお互いの行動(つまり、いくらを入札するか)を読み合いながら、自身の入札額を決定する。この読み合いの結果どのような入札がなされ、その結果本当に一番価値を感じている入札者に商品が行き渡るのか、そして売り手はいくら儲かるのか、こういったことを分析するのがオークション理論だ。