発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります。
今回は、大盛況に終わったオンラインイベント「発達障害なんでも人生相談」で寄せられた読者の質問と、借金玉さんの回答をお伝えします。
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発達障害の僕が発見した「いつも自分で自分を責めてしまう人」が陥りがちな思考パターンPhoto: Adobe Stock

<相談>
発達障害当事者です。社会的弱者という立場を取りながら、プライベートでは成功者を目指すという方針を持っているのですが、勝ち目はあると思いますか?

「仕事がダメだからプライベートは充実!」は意識が高すぎます

<答え>
 仕事などの社会的な面では最低限の成果だけを出すことを考えて、プライベートを充実させる戦略だということですね。

 これは基本的に悪くないと思うんですが、「仕事を取るかプライベートを取るか」ではなくて、「両方を少しずつラクに、いいものにしていくのはどうですか」というのが僕からの提案です。

 この質問の根底には「自分は仕事がダメなんだから、プライベートくらい充実させよう!」という、ある意味ストイックな「二者択一」の考え方があると思うんですよね。

 でも、「仕事」と「プライベート」はくっきりわけられるものではないです。僕ら発達障害者は、それがさらに顕著かなと。「生活が崩壊してウァーーーーーとなってる結果として、朝起きられず遅刻し、仕事で怒られる」みたいなことは往々にして起こる。だから、この2つを分けずに、工夫次第ですべてをラクにしようというのが、僕の本の出発点になります。

 僕もうつがひどすぎて今は不眠と過眠の症状が交互に出てて……今日ここに来るのに1時間以上遅刻してるんですが……こんな風に、「もう人生全部がダメ」が僕らのデフォルトなので、あんまり意識を高くしないように気をつけたいですね。

自分を「弱者」という抽象的な言葉でくくらない

 あともうひとつ、少し気になったのがさりげなく書いてある「社会的弱者という立場を取りながら」という言葉。仕事でもプライベートでも、「発達障害だから弱者」っていう決めつけを、自分からする必要はないと思っています。なぜなら、自分を「弱者」という抽象的な概念で規定するよりも、目の前の「具体的な」困難に対処する方が、うまく生きられるんじゃないかと僕は思うからです(具体的な困難とは洗い物がシンクにたまって悪臭を発しているとか、やることが3つ以上になってパニックが発生しているとかの、あれです)。

 実際、一口に「発達障害」と言っても、中身は千差万別です。診断を受けたら発達障害だろうけど、本人に自覚はなく、社会で一度も「困ったことがない」人もいます。例えば、僕のお世話になっている弁護士さんなんて、これまでに弁護士バッジを3回もあれしたそうですが……弁護士としては企業・個人から求められる仕事をし、高い報酬を得ている。

 一方で僕のように、「何かがおかしい」「みんなと違う」という違和感を持ちながらずっと生きてきて、医師の診断が出たときに「やっぱりね」という感想だった人もいる。さらに言うなら一人で生活するのは困難で、役所の支援が必要な人も存在します。

 この状況は、個人の能力ではなくて、生活環境や周囲の人間関係という外的要因で決まることが圧倒的に多いです。

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