不妊治療の光と闇#2Photo:PIXTA

新内閣の目玉政策として打ち出された不妊治療の保険適用。「自己負担額が少なくなる」と患者側は歓迎するが、自由診療で荒稼ぎしてきたクリニックは収入減が確実。新型コロナウイルス感染拡大とのダブルパンチで大淘汰と思いきや、これによって日本の不妊治療は“無法地帯”と化し、患者の負担がさらに増す可能性もある。特集『不妊治療の光と闇』(全8回)の#2では、保険適用に揺れる業界の裏事情をお届けする。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)

自由診療天国にスガノミクスの波迫る
オンライン診療解禁で医師会を撃破

 携帯値下げ、銀行再編、脱はんこ、デジタル化――。

 これまで頑として崩れなかった岩盤に、菅義偉新政権の規制改革“スガノミクス”の波が次々と襲来している。

 各産業界が戦々恐々とする一方、スガノミクスは不妊に悩む当事者たちにとって歓迎すべき大波だ。

 不妊治療の保険適用は、菅首相が自民党総裁選挙に立候補した演説会で真っ先に掲げた政策。まさに、新政権の“一丁目一番地”だからである。

 2022年春の診療報酬(国から医療機関に支払われる医療費)改定を目指し、今年の年末までに工程表を発表する予定だという。

 不妊の当事者団体の各種アンケートには、これまで高額な治療費を前に、治療を諦めざるを得なかったという声が多い。

「1回数十万円は下らなかった治療費が安くなる」「子どもを授かるまで、何度も治療を受けることができる」と、患者側の期待は高まる一方だ。

 しかし、不妊治療を担う医療側にとってはあまり都合の良い話ではない。

 これまでは公的保険適用外の自由診療で、施設ごとに自由に値付けできていたが、公的保険が適用されれば、治療費が一律になる。

 そして、患者の財布からではなく、国の医療費や健康保険料で賄われるため、診療報酬は、自由診療である現状の相場よりも抑制される可能性が高い。

 すなわち、保険適用によって不妊治療施設の多くは、確実に今よりも収入が減るのである。特に都市部の不妊治療クリニックは、新型コロナウイルス感染拡大による患者の受診控えですでに経営が傾いているところも多い。そこにきて、不妊治療の保険適用などされたら、たまったものではない。

 医療界の業界団体である日本医師会も、表向きは反対の姿勢を示してはいないが、「会員の産婦人科開業医たちは間違いなく抵抗する」(産婦人科医のK医師)。

 とはいえ、日本医師会が激しく抵抗していたオンライン診療(パソコンやスマートフォンなどを使ったインターネット経由の診療)の初診解禁が、政権交代後、いとも簡単に押し切られた。

 長年、日本の診療報酬制度に絶大な権勢を振るってきた日本医師会の岩盤も、スガノミクスを前に崩落寸前。患者たちの悲願だった不妊治療の保険適用を阻むものはもう何もないように見える。

 しかし、業界団体を退けたくらいで視界良好だと菅政権が考えているなら、日本の不妊治療の実態をあまりにも知らな過ぎると言わざるを得ない。

 そもそも保険適用すること自体、かえって患者にとって不都合なことだらけになる事態を招く可能性を大いにはらんでいるのだ。