イギリスからの翻訳書Google・YouTube・Twitterで働いた僕がまとめたワークハック大全』が本年9月に発売された。コロナ禍で働き方が見直される中で、有益なアドバイスが満載な1冊だ。著者のブルース・デイズリー氏は、Google、YouTube、Twitterなどで要職を歴任し、「メディアの中で最も才能のある人物の1人」とも称されている。本書は、ダニエル・ピンク、ジャック・ドーシーなど著名人からの絶賛もあって注目を集め、現在18ヵ国での刊行がすでに決定している世界的なベストセラー。イギリスでは、「マネジメント・ブック・オブ・ザ・イヤー 2020」の最終候補作にノミネートされるなど、内容面での評価も非常に高い。本連載では、そんな大注目の1冊のエッセンスをお伝えしていく。

脳に“刺激を与えない”ほうが人は創造性が高まるPhoto: Adobe Stock

なぜ、僕たちは”せっかち病”に陥っているのか?

 最近、ある人から興味深い話を聞いた。その人が子どもの頃、仕事から帰ってきた父親が、ただ椅子に座っていることが多かったというのだ。

 テレビも見ないし、ラジオも聞かない。本も読まないし、誰かと話をするわけでもない。ただ、椅子に座り、静かにじっとしていた。何を考えているの、と尋ねても、「別に」としか答えない。

 積極的に何かを思考しているのではなくて、ただ穏やかに心の中を見つめているだけだからだ。

 現代では、こんなふうに何もしないことは、風変わりで非生産的な行為だと思われている。世の中には刺激が満ちあふれ、すべきこともたくさんあり、行動的であることがよしとされている。

 そんな時代では、何もしていないことは野蛮であり、時間の無駄だと見なされる。こうして僕たちはみんな、”せっかち病”にかかっているのだ。

 それは、必ずしも悪いことではない。忙しく動き回っているからこそ、僕たちには多くのことを成し遂げられる可能性がある。

 「仕事を頼むのなら、忙しい人に頼め」というビジネスの世界の格言もある。僕たちは、行動こそが生産性を向上させると信じているのだ。

 ニューヨーク・タイムズ紙は2004年の記事で、街中の交通量の多い交差点の横断歩道の歩行者用ボタンが、ピーク時には青信号までの時間を短縮する仕組みにはなっていないことを報じている。

 歩行者はボタンを押したことで目の前の信号が早く青になったような感覚を得るが、これはプラセーボ効果にすぎない。

 細かく調整された交通システムは、通勤で急いでいる歩行者ではなく、大量の自動車をうまく捌くことを主眼にしてつくられている。

 世の中にはこんなふうに、”早く何かを終わらせなければならない”という思いに駆り立てられているせっかちな僕たちの気を紛らわせるためにつくられた、ダミーのシステムがいくつもある。

 なぜ、僕たちは”せっかち病”に陥っているのか?

 絶えず過剰な刺激にさらされている現代人は、”すべきことを全部終わらせられない”という絶え間ない不安につきまとわれている。

 インターネットが普及したことで仕事量も増えた。米カリフォルニア州の市場調査会社ラディカティ・グループによれば、現代人は1日当たり平均で約130件のメールを送受信している。

 この数字は世界中のメールユーザー全28億人を対象にしたもので、先進国のオフィスワーカーは毎日200件近くのメッセージを送受信していると考えられている。

 そして、会議だ。

 企業の大半は、社員が会議に費やしている時間の正確な記録をとっていない(たぶん、世間にそれを知られるのを恥ずかしいと思っているからだ)が、最近の調査によれば、イギリスの平均的な会社員は週に16時間を会議に費やしている。

 アメリカの管理職は週に23時間を会議室で過ごしているという調査結果もある。