感じることは動くこと

 7Gold、14Silver、17Bronze。8月12日に閉幕したロンドン五輪では、史上最多の38個のメダルを獲得した日本選手団の活躍に目を見張り、多くの感動をもらった。とりわけ、弱冠23歳にしてキャリア20年のベテラン、「泣き虫愛ちゃん」として知られた福原愛選手が、卓球団体でとうとう銀メダルを獲得し、その頬を伝った嬉し涙はわれわれの心を動かした。

 勝って感涙にむせび、負けて悔し涙を流す。試合の結果次第で、心が大きく揺らされるのが、純粋なスポーツの世界である。だが、おもしろいことに、試合が始まる前に涙するスポーツがある。それはラグビーだ。

 たとえば、早稲田大学ラグビー部では、ロッカールームにお札・塩・米・水を用意し、監督が塩をまいたジャージを、試合開始前に選手1人ひとりに手渡す。「おしこみ」という儀式である。選手は、監督やチームの期待が込められたジャージを手にし、試合に出られない仲間の分も思って号泣し、気持ちを高ぶらせてグラウンドに出ていく。

 なぜ、試合が始まる前に涙するのか? ラグビーはフィジカル・コンタクトがきわめて激しいため、タックルを受けて気を失ったり、大けがをすることがある。その危険をひしひしと感じている選手は、試合の恐怖や不安などを、泣くという行為によって晴らそうとする。すると、試合でも動けるようになる。

 モチベーションの語源は、「動くこと」を意味するラテン語モベーレだが、感情を露わにして泣くことで、心と体の両方が動けるようになる。元ラグビー日本代表 林敏之氏は、「感即動」(感じること即ち動くこと)という言葉で、そのことを言い表している。それほど、モチベーションは感情と結びついているのだ。