インターネットの「知の巨人」、読書猿さん。その圧倒的な知識、教養、ユニークな語り口はネットで評判となり、多くのファンを獲得。新刊の『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せるなど、早くも話題になっています。
この連載では、本書の内容を元にしながら「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に著者が回答します。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

9割の人が知らない「人間関係はマウンティングばかり」の人が行きつく末路Photo: Adobe Stock

[質問]
コミュ障を改善するために何かアドバイスをください。

 自分はADHDであり、過去やらかしたことがあり人と接するのが怖いです。

今までは人に興味を持たないようにしてやり過ごしてきたのですが、唯一の親友と別れたこともあるのでこのままではまずいと思っています。加えて、高校と二年の浪人生活と5年ほどあまり人とかかわってこなかったので、人の接し方を忘れてしまいました(もっともその前もうまく会話できたとは思いません)。

 最近では声のトーンが一定なのと、表情に乏しいことに気付いたので、発声練習と表情のトレーニングをしています。ですが、やはり何か空気が合わないというか気まずい感じがあり、会話が続きません。コミュ障を改善するために何かアドバイスをください。

あなたはきっと、人の失敗を嘲笑わず助けられる人です

[読書猿の解答]
 まず「コミュ障」という言葉ですが「コミュニケーションがうまくいかないのは自分に何か欠けたところがあるからだ」と考えてしまう原因になっているようです。捨ててください。

 あえて上から目線で続けますが、同年代集団の内で長い時間を過ごす日本の10代の経験で身につくコミュニケーション・スキルなど実は取るに足りません。例えば「空気を読む」と自称する人がやってるのはただその場のテンションまで自分のテンションを上げることだけで、その場でどんな人間力学が成立しているかまるで理解できてません。

 自称コミュニケーション強者は、場の空気を読む必要がないポジションを占拠しているだけで、「空気」なるもののメンテナンスは周囲の「弱者」に押し付けています。ひどいたとえをするなら、「フロ・メシ・ネル」以外言わずにすませてきた昭和のオヤジが定年後居場所を失ったように、マウンティングしか知らずまともな人間関係の経験を積まない人の末路は悲惨なものです。

 幸い、あなたには今友人がいません。旧来の人間関係に縛られず、いろんな経験と実験を積める時です。以前、2ちゃんねる界隈で少し有名になり、多くの人を勇気づけた「実録exposerさん」をご存じでしょうか(詳しくはリンク先をご覧ください)。こうした「へんな格好をして出歩く」という実験は、周囲に友人がいると親切にも止められて、中々実施できません。

 人間関係が怖いとおっしゃられますが、人間も人間関係も怖いものです。あなたが恐れているのはむしろそれに「失敗」することではありませんか。しかし誰もあなたに人間関係で100点満点をとって欲しいなどとは思っていません。人は失敗します、必ず、それも繰り返し。完璧な人間関係もコミュニケーションもありえないし、むしろ間違いを重ねるからこそ、人は誰かの助けを必要とし、また誰かに助けの手を差し伸べられるのです。

 あなたはきっと他人の失敗を笑ったり蔑んだりしないでしょう。世界には、同様に他人の失敗を笑ったり蔑んだりしない人が大勢います。笑う人、蔑む人とは付き合う必要はないし、向こうから「付き合うに値しない」シグナルを発してくれたのなら感謝して離れましょう。

 たくさんの失敗をしてください。今は怖くて失敗を回避し続けているのなら、小さな取るに足らない失敗をしてみてください。失敗しても世界は破壊されないし、あなたもすぐには地獄に落ちません。そして他の人の失敗を嘲笑わず助けてあげてください。人と関わる怖さを知るあなたにはきっとできると思います。