肉と魚の経済学#13Photo by Yoko Suzuki

漁業者が朝に取った魚を空輸して、その日のうちに客先に届けるビジネスモデルで急成長を遂げた羽田市場。特集『肉と魚の経済学』(全13回)の最終回では、水産物流通に精通した野本良平社長に、現在の日本の水産物流通の課題と解決策を聞いた。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

網走で水揚げした水産物を函館で詰めたら
函館産……水産物流ここがおかしい

――現在の水産物の物流について、どんな問題があるでしょうか。

 はっきり言って、漁業者も間に入っている卸も、小売りも消費者も、誰も幸せにならないシステムです。物流の中で情報がぶつ切りになっており、水揚げ情報もどの市場を通過して店頭まで来たかも分からない。羽田市場は必ず鮮魚を入れた発泡スチロールに水揚げ日、漁獲者、消費期限などの情報を書くのですが、実はこれは業界では“非常識”な話。そんなことをしたら市場で古い魚が売れなくなってしまいますからね。ただ、トレーサビリティを徹底している海外市場と比べても、日本の状況は健全とは言い難いです。

 水揚げ地についてもそうです。北海道の網走で水揚げしたものを函館で箱詰めしたら表記は「函館産」になります。今、水産庁はアワビとナマコについて漁獲証明書の発行を義務化しようとしています。たった二つ入れるだけでも大変な作業だと想像しますし、これを全魚種にということになると、いったい何十年かかるのかという気持ちになります。それほど水産物の流通はブラックボックス化されているのです。でもここを整備しないと、水産物の輸出等もできません。

――水産物の流通を変えることで漁業を変えたいと主張していますね。

 もともとこの事業を始めたのは、後継ぎもなく魚もいなくなり、漁業をやめようと思っていた漁業者と地方を救いたかったから。