生物とは何か、生物のシンギュラリティ、動く植物、大きな欠点のある人類の歩き方、遺伝のしくみ、がんは進化する、一気飲みしてはいけない、花粉症はなぜ起きる、iPS細胞とは何か…。分子古生物学者である著者が、身近な話題も盛り込んだ講義スタイルで、生物学の最新の知見を親切に、ユーモアたっぷりに、ロマンティックに語る『若い読者に贈る美しい生物学講義』が発刊。8刷、4万部突破のベストセラーになっている。
出口治明氏「ドーキンス『進化とは何か』以来の極上の入門書。」、養老孟司氏「面白くてためになる。生物学に興味がある人はまず本書を読んだほうがいいと思います。」、竹内薫氏「めっちゃ面白い! こんな本を高校生の頃に読みたかった!!」、山口周氏「変化の時代、”生き残りの秘訣”は生物から学びましょう。」、佐藤優氏「人間について深く知るための必読書。」、ヤンデル先生(@Dr_yandel)「『若い読者に贈る美しい生物学講義』は読む前と読んだあとでぜんぜん印象が違う。印象は「子ども電話相談室が好きな大人が読む本」。科学の子から大人になった人向け! 相談員がどんどん突っ走っていく感じがほほえましい。『こわいもの知らずの病理学講義』が好きな人にもおすすめ。」、長谷川眞理子氏「高校までの生物の授業がつまらなかった大人たちも、今、つまらないと思っている生徒たちも、本書を読めば生命の美しさに感動し、もっと知りたいと思うと、私は確信する。」(朝日新聞2020/2/15 書評より)と各氏から絶賛されている。
このたび、『若い読者に贈る美しい生物学講義』の著者更科功氏とベストセラー『哲学と宗教全史』の著者であり、”現代の知の巨人”、稀代の読書家として知られる出口治明APU(立命館アジア太平洋大学)学長との対談が実現した(第5回。全5回、毎週日曜日掲載)。累計50万PV(ページビュー)を突破した大好評連載のバックナンバーはこちらから。(対談記事構成・藤吉豊)

生物学者は、いま「新型コロナウイルス」をどのように捉えているのか?Photo: Adobe Stock

ウイルスを弱毒化するためにも、感染対策が必要

出口治明(以下、出口):更科先生は、生物学者として、コロナ禍の現状をどのように捉えていらっしゃいますか?

更科功(以下、更科):ウイルスというのは、生物と無生物の中間的な存在です。一番の特徴は、生物の力を借りなければ増えることができないということです。なぜなら、DNAやRNAのような設計図は持っているけれど、タンパク質を作る仕組みを持っていないからです。

生物学者は、いま「新型コロナウイルス」をどのように捉えているのか?更科 功(さらしな・いさお)
1961年、東京都生まれ。東京大学教養学部基礎科学科卒業。民間企業を経て大学に戻り、東京大学大学院理学系研究科修了。博士(理学)。専門は分子古生物学。東京大学総合研究博物館研究事業協力者、明治大学・立教大学兼任講師。『化石の分子生物学』(講談社現代新書)で、第29回講談社科学出版賞を受賞。著書に『宇宙からいかにヒトは生まれたか』『進化論はいかに進化したか』(ともに新潮選書)、『爆発的進化論』(新潮新書)、『絶滅の人類史』(NHK出版新書)、共訳書に『進化の教科書・第1~3巻』(講談社ブルーバックス)、新刊に『若い読者に贈る美しい生物学講義』(ダイヤモンド社)などがある。

 そのため、ウイルスは、自分のDNAやRNAを生物の細胞の中に注入して、自分に都合のよいタンパク質を、細胞に作ってもらいます。そして、細胞の中でウイルスを組み立てて、細胞の外へ出てくるのです。

 つまり、細胞はウイルスにとって、大切なものです。ですから、たいていのウイルスは細胞を大事にします。細胞を壊したり、感染した人を病気にしたりしません。でも、中には変なウイルスがいて、細胞を壊したり、感染した人を病気にしたりするのです。そういう意味では、ウイルスは人間に似ています。地球の環境を大事にする人もいれば、環境を壊す人もいますから。

 ですから新型コロナウイルスは、今ごろ「しまった!」と思っているだろうなと……。ウイルスにとっては、宿主を殺さずに生かしておいて、共生するのが一番いいはずです。

 ところが新型コロナウイルスは、宿主を殺しています。宿主を殺してしまえば、自分たちも生存できません。

出口:だから「しまった!」と思っているわけですね。