「自分の子育ての問題がわかる親」は1割しかいない理由Photo: Adobe Stock

新型コロナウィルスの影響で、世の中が大きく変わりつつある。そんな変化の激しい現代において「子どもに何をしてあげられるか」と悩んでいる親は多いのではないだろうか。
そこで、これまで教育を軸に取材を重ねてきた著者が、教育学、心理学、脳科学等、さまざまな切り口の資料や取材を元に「いま、もっとも子どものためになる」ことを『子育てベスト100──「最先端の新常識×子どもに一番大事なこと」が1冊で全部丸わかり』(加藤紀子著)にまとめた。
発売早々、高濱正伸氏(花まる学習会代表)が「画期的な1冊が誕生した。長年の取材で得た情報を、親としての『これは使えるな』という実感でふるいにかけ、学術研究の裏付けやデータなども確認した上でまとめあげた力作である」と評するなど話題騒然の1冊だ。
今回、『子育てベスト100』著者の加藤紀子氏とスタンフォード大学・オンラインハイスクール校長であり、著書『スタンフォード式生き抜く力』が大きな話題となっている星友啓氏との特別対談が実現した。最先端の教育事情を反映した子育て対談も最終回。ぜひお読みください(構成:イイダテツヤ)。
※対談の前回「『子どもの思考を刺激する親』がいつもしている1つの習慣」コチラ

現場に行くと「知識」がつながる

「自分の子育ての問題がわかる親」は1割しかいない理由加藤紀子(Noriko Kato)
1973年京都市出まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、国際バカロレア、教育分野を中心に「NewsPicks」「プレジデントFamily」「ReseMom(リセマム)」「ダイヤモンド・オンライン」などさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。一男一女の母。膨大な資料と取材から「いま一番子どものためになること」をまとめた『子育てベスト100──「最先端の新常識×子どもに一番大事なこと」が1冊で全部丸わかり』が15万部を超える大きな話題となっている。
「自分の子育ての問題がわかる親」は1割しかいない理由星 友啓(Tomohiro Hoshi)
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
経営者、教育者、論理学者
1977年生まれ。スタンフォード大学哲学博士。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。教育テクノロジーとオンライン教育の世界的リーダーとして活躍。コロナ禍でリモート化が急務の世界の教育界で、のべ50ヵ国・2万人以上の教育者を支援。スタンフォード大学のリーダーの一員として、同大学のオンライン化も牽引した。スタンフォード大学哲学部で博士号取得後、講師を経て同大学内にオンラインハイスクールを立ち上げるプロジェクトに参加。オンラインにもかかわらず、同校を近年全米トップ10の常連に、2020年には全米の大学進学校1位にまで押し上げる。世界30ヵ国、全米48州から900人の天才児たちを集め、世界屈指の大学から選りすぐりの学術・教育のエキスパートが100人体制でサポート。設立15年目。反転授業を取り入れ、世界トップのクオリティ教育を実現させたことで、アメリカのみならず世界の教育界で大きな注目を集める。『スタンフォード式生き抜く力』が初の著書。
【著者公式サイト】(最新情報やブログを配信中)
https://tomohirohoshi.com/

星 友啓(以下、星) 加藤さんの書かれた『子育てベスト100』を読んだり、お話を聞いていて、純粋に「どうやってネタを仕入れているんだろう」と思うんですよね。ネタっていう言い方は適切じゃないかもしれないんですけど、どんな本を読んでいるとか、どんなふうに取材をしているとか、何かやり方があるんですか?

 必ずこの論文を読むとか、このマガジンは欠かさず目を通しているとか。

加藤紀子(以下、加藤) 特別なやり方ってわけではないんですけど、身の回りのひとつひとつのことを全部、糧にしてしまっているというところはあると思います。

人とのつながりとか、取材とか、本についても乱読ですし、まったくのカオスなんですけど、「ここからここまで」とか線を引いて、自分の守備範囲を制限してしまうようなことはなるべくしないようにしています。

 たとえば取材・執筆の仕事として「教育以外の記事はやらない」とかって線を引いてしまうと、知識がやせ細っていってしまうような気がして。

 そもそも教育と社会は地続きです。だから一見教育と関連性のないようなビジネスのトピックなんかも、オファーがあれば引き受けます。そうすることで、これまで教育業界の中からは見えていなかった新しい気づきが得られたりするんです。これは「鳥の目」です。

 一方で「虫の目」として、リアルな現場に近いところにもできるだけ行くようにしています。

 正直言えば、「このテーマはちょっと飽きちゃったな……」と感じることもあったりします。

 でも、現場で実際にいろんな方への取材を重ねていると、ビジネスの最前線と教育の現場との「つながり」が見えてきたり、実感を持って学術的な知識が腹落ちしたりもします。だから、さまざまな現場に行って、人や言葉に触れるということは、できるだけ削らないようにしています。そうすることで、流れとか進むべき方向性みたいなものが見えてくるんです。これが「魚の目」ですね。

「目の前の相手」に向き合う

 なるほど。そういう思いを持っているんですね。それは僕も共感できるところですね。

 ある取材で、たとえば加藤さんや僕のメッセージをどうやったら「もっと多くの人に届けられるか」「本当に必要としている人に届けられるか」と聞かれたことがあるんです。

 そのときに僕が思ったのは、もちろんたくさんの人に届けたい、この本だって多くの人に読んでもらいたいとは思うんですが、まずは自分の目の前にいる子どもたちに向き合っていくことこそが大事なのかなということ。

 だから、教育学者のように、研究したことを伝えるというよりは「身をもってやるしかない」と思っているんですよね。

 加藤さんの「現場に行くのを削りたくない」というのと似ていて、やっぱり僕も「教育の実践者でありたい」と思って仕事を続けているんです。今は校長なんですけど、それでも実際に現場で教えています。現場には、僕よりうまい先生はいっぱいいるんですけどね(笑)。

「3つのOK」で、気軽に読んでほしい

加藤 「もっと多くの人に届かせたい」という点では、今回の『子育てベスト100』は、ふだん本を読まないお母さんたちにも届く本にしたい、という思いをすごく持っていました。

 の冒頭には「どこから読んでもOK」「全部できなくてOK」「すぐに効果が見えなくてOK」という『3つのOK』が書いてあるんです。最初から全部読むものこそが本、という考え方からすると、ちょっと本っぽく見えないかもしれません。

 でも、子育てしているお母さんって圧倒的に時間がないんですよ。そんなお母さんたちが「子育てで悩んでいること」があったら、どこからでもいいからちょっと読んでみて、1つでもいいから実践してみてほしいんですよね。

 それで意外とうまくいったとか、自分が少しでも楽になったとか思ってもらえたら、その後で「本を買って、読んでみよう」でもいいかな、と。

 その点では、『子育てベスト100』はライトな「ティップス」がいっぱいなところがすごくいいですよね。

 教育とか子育てって、結局「鉄則」はないと思うんですよ。やってみて、当たるかもしれないし、うまくいかないかもしれない。そういう意味では気軽な「ティップス」がいっぱいあるのは、ありがたいと思います。

「自分の問題を言語化できる人」は1割

加藤 つい最近、精神科医の先生のお話を聞く機会があったんですけど、自分の悩みとか、困っていることを言語化できる人は1割くらいしかいないって、その先生はおっしゃるんです。

 それを聞いて、なるほど、たしかにそうかもしれない、と思ったんですよね。

 だから、こうやって先にいろんなティップスをできるだけシンプルな言葉でわかりやすく見せることで、「あっ、私にもそういう問題があった!」「自分はこういうことに困ってたんだ」と気づけることもあるだろうなと思うんです。

 そういう意味では、星さんの著書『スタンフォード式生き抜く力』にもたくさんのティップスが盛り込まれていて、すごくいいなと思っています。

 星さんは、ご自身ので「ここをぜひ読んでほしい」というようなところはありますか?

 強いていえば、最後の「本当の幸せの見つけ方を科学する」という章ですね。

 その章では、実際に学校でやっている対話の授業を、そのまま対話形式で載せているんです。現場でどんなやりとりが行われているか、そのリアルを感じていただけると思うので、自分でもけっこう気に入っています。

加藤 日本とアメリカではいろいろ違いがあるのかなと思ってこの対談に望んだんですが、思った以上に共通する部分というか、共感できる部分が多くてとても楽しかったです。本日は本当にありがとうございました。

 こちらこそ、ありがとうございました。