ノーベル賞科学者が今このタイミングで「ウイルス入門書」を推す本当の理由

「ウイルス、とくにコロナウイルスのことを知りたい人にはお勧めの本だ」
ノーベル賞受賞歴もある生物学者、ポール・ナースがそう評した本が、このたび日本でも発売となった。その名も、『絶対にかかりたくない人のためのウイルス入門』
「そもそもウイルスって何?」
「どうやって感染が広まるの?」
「打ち勝つにはどうすればいい?」
新型コロナウイルスの感染が再拡大しはじめ、いったい何が正しくて何が間違っているのかが見えにくくなった今こそ知っておきたい基礎的な情報、そして対策についての知識が満載の本だ。でも、なぜ今さらウイルスについて知っておくべきなのだろうか? その答えを、同書、そしてポール・ナースの言葉をたどってご紹介しよう。(構成:編集部 廣畑達也)

なぜ今さら「ウイルス入門書」が世の中に必要なのか?

「地球上には宇宙の星の数よりもたくさんのウイルス粒子が存在しているが、ここ6ヵ月、とくにその中の1種類である新型コロナウイルスSARS-CoV-2が、我々の生活に重くのしかかっている。この本は、その現状と理由を、誰でも簡単に読めるよう明解で正確な書きっぷりで教えてくれる」

 あるウイルス学者がそう評価した本がある。

『絶対にかかりたくない人のためのウイルス入門』(原題:The Virus)だ。

 生物学者で、かつ科学コミュニケーターとして活躍するベン・マルティノガと、イギリスで12万人以上のフォロワーを抱える人気イラストレーターのムース・アランがタッグを組み、この厳しい時代を生きていくうえで押さえておきたいウイルスについての基礎知識、そして対策のすべてを、やさしいタッチのイラストとともに解説していく、格好の入門書である。

ノーベル賞科学者が今このタイミングで「ウイルス入門書」を推す本当の理由『絶対にかかりたくない人のためのウイルス入門』より。随所にイラストや図がちりばめられており、基礎知識を押さえるのに適したつくりとなっている。

 とはいえ、日々の暮らしの中で「ウイルス」という単語を聞かない日はもはやありえなくなってしまった今、なぜ、ウイルスについて改めて学ぶ必要があるのだろう

 そんな疑問を察してか、著者2人もこう認める。

「COVID-19を引き起こすSARS-CoV-2コロナウイルスは、人間の世界にとってはまったく新しいウイルスだ。2019年11月まで誰も感染したことがなかったので、いまだにわかっていないことがたくさんある。それでも世界中の科学者や医師が力を合わせて、このウイルスの振る舞い方、そして何よりも大事な、人に危害を加えないようにする方法を明らかにしようとしている。コロナウイルスについての知識は日々変化している――科学というのはそういうものだ」

 それでも、彼らは冒頭でこんなふうに宣言する。

「そんなに小さくてひ弱なのに、どうしてこんなパニックを引き起こせるんだ?(中略)さぁ、そんな謎だらけのウイルスの正体を探っていこう。僕らはウイルスやそれが引き起こす厄介な病気と共存するしかないんだから、ウイルスが何ものなのか、どうやって生きていてどうやって広まるのか、できるだけ知っておいたほうがいい

 ウイルスとの長期戦を乗り越えるために、ここで、改めて「ウイルスとは何なのか」「マスクや手洗いはなぜ効果があるのか」「私たちの体は、ウイルスに対してどんな反応をしているのか」といったことを、知っておく必要がある。

 知っておくことで、自分や、自分の大事な人を守るための必須の知恵を身につけてほしい

 著者2人は、そう願って、この楽しく学べるウイルスの本を書き上げたのだ。

 2人のそんな思いに呼応するかような、ノーベル賞科学者ポール・ナースの「はしがき」を引用しよう。

ノーベル賞科学者ポール・ナースが今「この本」を推す理由

 いわゆる“新型コロナウイルス”による感染症(COVID-19)によって、誰もがウイルスに関心を持つようになった。あなたもその1人だとしたら、ぜひこの本を読むべきだ。今回の感染症を引き起こしたSARS-CoV-2コロナウイルスは、あらゆる人の世界を変えてしまったが、ほとんどの人はウイルスが何ものなのかぼんやりとしかわかっていない。この本はウイルスのすべてを教えてくれる。地球上でもっとも数が多く、我々を含む生命の世界にとてつもない影響を与えているこの驚くべき生命体の、必読の入門書である。

ノーベル賞科学者が今このタイミングで「ウイルス入門書」を推す本当の理由コロナウイルスと人間のユーモアあふれるやり取りも、本書の理解を助けてくれる。
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 この本を読めばわかると思うが、ウイルスは信じられないほど小さいうえに、自身のコピーを何百何千と作って、ほかの生物の細胞に侵入する。いわば究極の寄生体だ! COVID-19を引き起こすウイルスも、我々の身体に侵入する多くのウイルスと同じく、症状が軽いこともあればときにかなりの重症になることもある。くしゃみや咳をすると飛ひ沫によってウイルスが飛んでほかの人に感染することがあり、その広まり方が速いとエピデミックやパンデミックになりかねない。

 この本を読めば、コロナウイルスとどう戦えばいいのか、そしてコロナウイルスがどこからやってきたのかがわかるはずだ。だがそれだけでなく、細菌を攻撃して人間への感染力を奪うウイルスや、海中で酸素を作っている細菌を助けるウイルス、さらには気候変動の解決に役立つかもしれないウイルスなど、多くの種類のウイルスについても知ることができる。

 この本は、ウイルスたちの奇妙な世界をめぐる刺激的な冒険の旅のガイドブックだ。すらすら読めるし、ジョークやユーモアが満載だし、いろいろなことを正確に知れるし、イラストも見事だ。我々の免疫系がどうやってウイルスと戦うのか、ワクチンはどうして効くのかを教えてくれるし、将来のパンデミックとよりうまく戦うにはどうすればいいのかも示してくれる。ウイルス、とくにコロナウイルスのことを知りたい人にはお勧めの本だ