インドネシアのある規制改革が、日本の商社に波紋を呼んでいる。つい2年ほど前までは、右肩上がりで勢いの止まらなかったビジネスが、しばらく苦戦を強いられそうだからだ。

 その規制とは、6月に導入された二輪車と四輪車のローンを対象にした頭金規制。これまで頭金なしで組むこともできたものが、二輪車で25%以上、四輪車で30%以上の頭金を納めなければならなくなった。

 2億4000万人の人口を抱えるインドネシアは、いまや中国、インドに次ぐ二輪車市場へと急成長している。低所得者層への販売を中心に、昨年の販売台数は約800万台にも上り、世界市場の約2割を占める勢いだ。

頭金規制導入で悲喜こもごも<br />商社のインドネシア二輪事業インドネシアのバイク市場は、ホンダとヤマハ発動機でシェアの9割を握る日系メーカーの金城湯池。商社もその巨大市場でしのぎを削る
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 だが、これまではローン審査に関する厳密なルールがなかったため、頭金なしで購入した個人が返済できなくなって、不良債権化する事態が急増した。おまけに地場の企業の参入により過当競争が巻き起こり、ついに政府が頭金規制へとかじを切ったのだ。

 新興国における二輪車や四輪車の販売金融は、実は商社の肝のビジネスの一つだ。

 近年の資源高の陰に隠れて目立たないが、例えば住友商事の場合、インドネシアでの二輪車・四輪車の販売金融事業を行う輸送機・建機部門の収益は、全体の純利益の約11.8%を占める(2012年3月期)。全体の約4割を稼ぐ資源・化学品部門に次いで3番目の、大事な稼ぎ頭なのだ。

 だが、不払いの急増に見舞われ、事業は頭打ち。住友商事は輸送機・建機部門全体の純利益こそこれまでと同水準に保っているものの、返済リスクの高い顧客は無理に取りに行かない方針に転換、融資契約台数の目標も下げている。

 一方で、リスクが軽減する今こそ好機とみて参入する商社も出てきている。その一つが丸紅で、8月に入って、現地の大手二輪販売金融業者MCF社の株式30%を取得することを発表した。今月中にも駐在員が現地へ出向き、先行する同業他社を追うという。

「販売台数の一時的な減少はあるが、中長期的な経済成長が続く中で、来期以降の需要の再拡大は間違いない」(丸紅関係者)と読む。

 ライバルの台頭に、自らの手で一から積み上げてきた住友商事は、「簡単に譲る気はない」(住友商事関係者)と意気込む。だが、競争の激しい市場だけに、長年のノウハウを持つ住友商事といえども、着実に契約台数を伸ばしていくことは容易ではない。

 今年の二輪車の販売台数は、規制の影響で少なくとも昨年の約20%減となると見込まれている。地場の会社も力をつけてきており、内需を取り込もうとする各社の陣取り合戦は、一層激しさを増してきた。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 脇田まや)

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